「無人暗殺機 ドローンの誕生」 by リチャード・ウィッテル

やわなべです。

ちょうどドローン規制のための航空法改正案が閣議決定したところですが、本書「無人暗殺機 ドローンの誕生」はそんな空撮などのホビー用ではなく、無人暗殺機というダークな役割を担うドローンのお話です。

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無人暗殺機 ドローンの誕生 (文春e-book)

  • 作者: リチャード・ウィッテル
  • 出版社: 文藝春秋

無人暗殺機プレデターに対しては、主に倫理的な面で、いろいろ思うところはある方もいるでしょうが、本書はどちらかというと、

プレデター開発プロジェクトX

といった内容です。田口トモロヲさんのナレーションで番組化してほしいです。

てなわけで読んで見ると意外とこれがそこらのヒット商品やサービスの開発ストーリーと同じような紆余曲折を経てここにある、ということがわかります。ベンチャー企業をやってる人や、将来的にやろうとしている人が読むと得るところが多いのではないでしょうか。

ただ、やはりこのプレデターというプロダクトに関しては、そのプロジェクトの成功の裏で必ずどこかの人が死んでるわけなんで、その点で、なんとも言えないわだかまりを感じながら読むことになるのですが。。。

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無人機というベンチャー事業、4つの苦難と4つの転機

プレデターの開発ヒストリーは1980年代から始まります。また、プレデター自身が攻撃をする機能を持つようになったのは、その中でも後のほうだったりします。

そんなプレデター開発をひとつのベンチャー事業と位置づけて、その苦難転機を追って見ましょう。

苦難1. 大企業からの嫌がらせ

最初に登場するのはイスラエル人の天才肌の技術者エイブ・カレムさんです。この方、自身の航空分野での技術力でもって、まわりのアラブ諸国と紛争が絶えない母国イスラエルのお役に立ちたいと、無人偵察機の研究に打ち込みます。

当初イスラエル国有の航空産業企業で開発をしてたんですが、国有企業ならではの意思決定も遅さになかなか自分のやりたいように開発ができないんで、すっぱりやめて起業するんですが、その際、上層部から「絶対につぶすからな」と脅されるんですよ。実際起業後に、いくらいいものを作って提案しても嫌がらせのような横槍が入って相手にされません。

で、「ここでは未来はないな」と渡米し、かつてのジョブズさんのように、西海岸を拠点にガレージハウスで無人機作ってベンチャー企業をたちあげるのですが…

苦難2: 市場がない

現地で優秀な開発者も雇ったり、大がかりな航空ショー(展示会)に出展したり、アメリカ空軍の軍人の前でデモをしたりと、カレムさん頑張るんですがやっぱりビジネスは軌道に乗らない。実はライバルはまだほとんどいなかったんですが、タイミングが悪かった。

時は1990年、ちょうど冷戦が終わった直後で世界は完全に軍縮ムード。米軍の中でもどうころぶかわからない未知の新技術どころか、もっと現実的なオフプレイやF14トムキャットなどの開発計画すら停止してたころです。世界で一番、軍用機のニーズのあるアメリカがこれですから、この段階で無人機の市場は世界中を探してもゼロに等しかったわけです。

技術には絶対の自信があったカレムさんですが、市場がなければ会社は回りません。結局、同じく無人機の開発をしていた「ジェネラルアトミックス」という企業に買収されることになるんですね。

苦難3: 役所内の縄張り争い

このあたりから話の中心は軍や諜報機関であるCIAに移ってきます。

かつてカレルさんが嘆いたイスラエルの国有企業同様に、米軍やCIAといえども、やっぱりひとりひとりは公務員、官僚的な部分があるのはイスラエルと同じなんですね。異なる組織(空軍、陸軍、CIA)の間での縄張り争いとか、見栄の張り合いとか、足の引っ張り合いだとかがあって、実践で役に立つかどうかわからないプレデター開発を組織をあげて推進しよう、とはなかなかいきません。それぞれの機関の中に先見のある人ってのはいるんですけどね。

苦難4: 新技術に対する偏見

さらに、当初陸軍主導で進められてたプロジェクトが空軍の支配下の組織へ統合されるんですが、空軍はやっぱり「パイロットが戦闘機に乗ってこそなんぼ」というプライドがあって、「こんなロボットにに何ができる?」と2流プロジェクト扱いされるわけです。プレデターを遠隔操作するパイロットを募っても、「出世コースからはずれてしまうから」と誰も応募しない状況。


(どう見ても、ゲーセンで対戦してるようにしか見えないプレデター操縦室)

転機1: デモ

そんな不人気ぶりを打開したきっかけは、何度か出てくるのですが「デモ」です。プレゼンです。

偉いさんを集めた会議室のモニターにプレデターが追跡しているトラックが走ってる映像をリアルタイムで見せる。誰かが「この解像度じゃ動いてるトラックの型がわからないな」とつぶやいたら、そのやりとりがリアルで操縦室に伝わっていて、カメラがトラックの型を特定できるくらいにズームインして会議室びっくり、みたいなサプライズを見せるわけです。

結果、組織トップレベルの中にもその将来性を理解する人が出てきて、プロジェクトの速度が上がります。

転機2: 実績

ベンチャー企業の商品やサービスを評価するときには、他社への導入実績が重要になります。前述した軍縮モードがずっと続いていればプレデターのその実績を積む機会がなかったかもしれませんが、幸い(といっていいかどうか)ボスニア紛争でのセルビア軍の偵察任務という絶好の実証機会を得ます。

しかも、直前に間違って中国大使館を爆撃してしまうという大失態を演じてしまった米軍にとって、攻撃対象の偵察精度をあげたいというニーズは切実で、プレデター、満を持してのミッションとなりました。そして、ここでの実績でプレデターの偵察能力は一定の評価を得ます。

転機3: 映像の力

ここまでこなしてきたプレデターの任務は偵察のみです。が、映像の力は偉大で、技術改善で映像の精度が上がればあがるほど「ちょ、今見てるこれ、見てるだけやなくてどないかでけへんの?」という新たな欲が湧いてくるわけですね。

文字や表からなるパワーポイント資料にはなんの反応もない顧客が、プロトタイプのデモをすると俄然食いついてくるのと同じ構図です。

ボスニアのあと、アフガニスタンの地で、タリバン政権やビン・ラディンら重要人物の動向を偵察するミッションを得るのですが、(この時 9.11テロはまだ起こってません)ここでも、最重要人物としてマークしてたビン・ラディンの日常を姿を捉えるんですよ。貴重なセレブ映像に、お偉方はそろって興奮、プレデターの武装化の声が高まります。

ただ、無人機の武装化の最大の問題はアフガンで無人機が暗殺ミッションをこなすためには、遠隔操縦拠点をおいてるドイツ(在独米軍の本部)から、攻撃を指示しないといけない点。直接関係ないドイツがさすがにそれは許さんだろう、ということで話が流れかけるのですが。。

転機4: 9.11テロ

本書も終盤にさしかかるタイミングで、9.11テロが起こります。

すぐさま、まだ試験が完了してなかった武装済みプレデターに指示が出、CIAにかけられてた暗殺の制限も緩和されます。そして懸念材料だった自国外からの攻撃実施は、ワーナーさん(ちょこちょこ出てきて圧倒的な仕事を成し遂げる天才肌の技術者)が大西洋の間を中継することで米国内から遠隔操作できる技術を開発して諸問題が一気にクリアします。大きなブレイクスルーを起こすには、それだけの大きなトリガーが必要ということですね。

まとめ:プロジェクトXとしてのストーリーは面白かったが、責任の所在ははっきりしてほしい

プレデターのその後の活躍(とそれに対するさまざまな批判)はご存知の通りですが、あくまで開発ストーリーである本書ではあまりその点は扱われていません。

本書の最大の読みどころは、プレデターが初めて人を攻撃をするくだりなんですが、驚くべきことに、誰がその最終指示を出したのかが不明瞭なんですよ。

作戦当時フロリダにいた総司令官フランクス陸軍大将が後に回顧録で「自分が指示した」と書いてるんですが、攻撃直後にサウジアラビアの作戦本部の現地司令官ウォルドとの会話で彼は「誰が指示したのかわからない」と言ったというメモが残ってるんですよね。

一方、プレデターはCIAが管理してて遠隔操作もCIA本部の敷地内に置かれてたんですが、攻撃の直後やっぱりサウジのウォルドからCIAに電話がかかってきて「誰がやったんだ」と猛抗議です。

直接指示系統にいない空軍トップのジャンパーさんがサウジのウォルドに電話で「攻撃対象が動いたぞ」とお節介してくるし、ホワイトハウスではブッシュ大統領が抹殺すべき人物をリストした「デスノート」を手にモニターに見入っています。

ここに出てくる全員がそれぞれの場で同じリアルタイム映像を見ています。で、それが逆に指示系統の混乱をきたしているという様子が、滑稽でもあり、恐ろしくもありました。

現在ではその辺りも整備されているとは思いますが、最終的な攻撃の決定とその責任の所在についてはもう少しはっきりさせたほうがいいんじゃないかと感じましたよ。

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無人暗殺機 ドローンの誕生 (文春e-book)

  • 作者: リチャード・ウィッテル
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