(読んだ本)「小説 琉球処分」/ 大城 立裕

やわなべです。

辺野古沖の基地移転問題が二転三転してますが、琉球王朝の時代の終わりと、沖縄県として日本の行政下に入るまでの経緯を描いた「小説 琉球処分(大城立裕著)」を読んで、沖縄という土地と日本本土とのアンビバレンツな関係を改めて考えています。

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小説琉球処分

まずこれ、文庫版でも1000ページほどの大著です。しかも内容は外交劇で、胸躍るような派手なシーンもありません。

加えて、風景や人物の見た目の描写が少なくて、視覚的なイメージがしにくい。数年前NHKで放送された、この時代の琉球を舞台にした「テンペスト」の絵で補いながら読んでました。

まあ、これはかなりファンタジーでしたが。。

著者の大城氏は1925年の沖縄生まれの作家なので、ちょうど、おじいさまくらいの世代がこの琉球処分をリアルに経験された世代ではないでしょうかね。

著者は、敗戦後の沖縄県庁に務めたあと、1957年からこの「琉球処分」を沖縄のローカル紙の連載小説として執筆します。その後、1967年に芥川賞を受賞したのち、沖縄資料編集所所長や沖縄県立博物館の館長職などを歴任されています。

1957年といえば、、そうですよ。

「日本占領史 1945-1952」

以前別の書評で書いたように、沖縄に対する施政権とバーターのような形で、日本が独立を回復してからわずか5年後。

執筆当時、沖縄人としてリアルに感じていたであろう、ヤマト(日本本土)に対するアンビバレントな感情と、60年前の明治時代の琉球の人々が同じくヤマトに対して感じたもどかしさとが、著者の中でないまぜになっていたかもしれません。

琉球処分とは

話は、廃藩置県をすすめる日本政府が、当時、琉球藩として微妙な位置にあった沖縄を正式に支配下に組み入れようとする過程です。日本政府側の担当は内務省の官僚、松田道之

琉球処分は、廃藩置県の一環なんですが、琉球においては、それまで王朝が存在していたわけで、どう現地の人々が納得する形で、日本国へ組み入れるかが課題となります。

琉球王朝の廃止はすでに政府の既定路線なんで、本来、松田の役割はメッセンジャーにすぎないはず、なんですが、のちの治世を円滑にするためにも「旧政権の合意の元、施政権を平和的に委譲した」という形で現地人の支持を得たい。

が、「中国との朝貢関係をやめる」「藩王(琉球王尚泰)を上京させる」という2点において、琉球側からの強い抵抗にあいます。

「抵抗」といっても武力のない琉球のこと。ひたすら嘆願、お願い、です。

裏で、朝貢国、清朝が支援してくれるとの淡い期待を抱いてはいるのですが、アヘン戦争やら太平天国の乱やらで疲弊しきった当時の清朝に、琉球のような弱小国を保護する余地など全くありません。完全に片思いです。

最終的に状況を案じた尚泰が自ら上京を決意することになるのですが、わだかまりを残したまま物語は終わります。そして、そのわだかまりは、100年以上立った現在も、形を変えて顕れてきているような気がします。

琉球人としての自問

琉球処分のいちばんの参考資料は、他ならぬ処分官、松田自身が交渉経緯を詳細に記した「琉球処分」という文献。著者もそれを丹念になぞったからか、彼の描く物語には、完全な悪人もヒーローも出てきません。

日本政府に敢然と立ち向かう琉球側の英雄もなければ、植民地主義の権化のような、無慈悲な執政官みたいなキャラもいない。

「物語として、やや盛り上がりにかけるかなぁ」と最初は読みながら思ってたんですが、途中で、「いや、違う」と感じました。

まさにそう。市民革命のような「盛り上がりどころのないまま」に、旧体制が消え、新体制に否応なく組み込まれてしまったという郷土の歴史に対し、著者や、作品に登場する琉球人みんなが自問を繰り返してるようなんですよね。

「きみは大陸的と言ったが、あれは大陸的などというものではないね」

「そういうことでしょうか」

「大陸的な充実した強さではないのだよ。あくまでも島国の――貧乏な島国のものだ。なんにももたない空しさだけだ。決してかれら自体が強いのではない。が、あの空しさを見て、ぼくらが薄気味の悪さを感じとるだけなのだ。口が狭くて底の深い古井戸のようにね

これは、つかみどころのない琉球側の使節との交渉後、部下と、その文化的背景を論じる松田のセリフなんですが、松田が公的文書でこんな詩的な述懐を残しているわけはなく、著者が、彼の公的文書を読む中で、琉球人としてのセルフイメージを、客観視しながら書いてるわけです。

そこに、ほのかな自虐を感じるのは私だけでしょうか。

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