「お皿の上の生物学(小倉明彦)」

やわなべです。

お皿の上の生物学」は、阪大理学部の小倉明彦教授による著書。生化学、解剖学などの専門知識を、身の回りの料理をモチーフにし「味の話」「色の話」「香りの話」といった親しみやすいテーマで、専門外の人間にも興味が持てるよう、全8回の講義に仕立てた本です。

…と書くと、コンセプトは、昨年NHKにも取り上げられ話題になった物理学のウォルター・ルーウィン教授によるMIT講義を記した「これが物理学だ!」に近いと思う方もおられるでしょう。はい、まさにその通り。ジャンルは違えど本書のクオリティはルーウィン教授のそれに劣らず、単に門外漢の興味を引くためのものにとどまらず、学問そのものへの興味を再度、呼び起こしてくれるような良書となっています。

まあ、それもそのはずでしてね。

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受験疲れの大学1年生向けのリハビリが目的

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お皿の上の生物学

  • 作者: 小倉 明彦
  • 出版社: 築地書館

あとがきによると、この本は実際に阪大の初年度の学生向けに行われた講義の講義録が中心で、その目的は、受験勉強疲れで、勉学へのモチベーションを失いがちな初年度生に、もういちど勉学の楽しさを思い出させ、興味を促そうとするためのリモチベーション(再動機付け)だそう。

実際の講義は食物サンプルあり、試食ありといった多彩なもので、小倉教授が練りに練った企画授業らしい。この試みは2011年からやっておられ、すでに2011年に阪大出版会から「実況、料理生物学」として出版されていて、本書はその続編となります。

ルーウィン教授の物理学講義よりは、トリビアネタや関連知識などの枝葉の部分が多い印象で、その分、各章の末尾についてる解説で補う構成になってます。ネタ満載とは言え、専門知識の説明にも手抜かりはなく(ただし化学式は少なめ)、その
一方で、補講の解説であっても、ユーモア精神を忘れない姿勢は素晴らしい。

授業を面白く演出しようとする試みは、小倉教授だけでなく、多くの先生が日々取り組んでおられることとは思いますが、小ネタやトリビアなど取り入れ方や、真面目な解説部分にまで興味を持続させるための語り口にセンスを感じます。本書のあとがきを締めくくるのは氏の趣味である自作の漢詩ですよ。地頭がいい方なんでしょうね。

あと、単純に教授の料理の腕前が相当そうだ、というのが行間から感じられるところも密かなポイント。

最後の8章はライターにもおすすめ

全8章のうち、最初の4章は実際の講義録で、続く5〜7章は、次の授業のために準備したドラフトに基づいて書き下ろしたものだそう。読んでてこの境目で「あれ、ちょっとトーンダウンした?」と思ってしまったんですが、あとがきを読んで納得。音楽で言えば、多くの学生の目にさらされたライブバージョンとスタジオ録音によるCDとの違いのような感じでしょうか。

ただ、ひとつだけ全く毛色が異なるのが「論文の話」と題された最後の第8章。理学部生物科学科の学生に向けて行っておられる「レポートの書き方実習講義」の記録です。

これを本書の1章として盛り込んだきっかけに昨年の小保方事件があったのかどうかはわかりませんが、この8章がですね、現役の学生や研究職の方だけでなく、ブログなんかの文章を書くライターにもとても参考になるものなんですよ。

この章、「学者稼業はつらいよ」的な教授の愚痴っぽい話が満載で、それによると、理系の学者ってのは、研究内容でなく「論文がどこに掲載され、他の学者によってどれだけ引用されたか」で外的評価が決まるんだそうな。独自の研究を行ってるような学者は、その確率が低く、必然的に評価も低くなる。実際、遺伝学の祖、メンデルの研究論文なんかは、彼の生前には完全に黙殺されたわけですしね。

そこで、なんとか読んでもらおうとタイトルやサマリーの書き方に工夫するわけです。ほら、SEOやシェア狙いの物書きと一緒でしょ。

それ以外にも論文の導入部の書き方、エビデンスの見せ方、事実と主観の交え方、など、単なるブログ書きにも大いに参考になるところが多々。決して安い本ではないですが、座右において損のない本だと思います。

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お皿の上の生物学

  • 作者: 小倉 明彦
  • 出版社: 築地書館

「実況・料理生物学 (阪大リーブル030)」販売ページヘ

実況・料理生物学 (阪大リーブル030)

  • 作者: 小倉明彦
  • 出版社: 大阪大学出版会

「これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義」販売ページヘ

これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義

  • 作者: ウォルター ルーウィン
  • 出版社: 文藝春秋