(読んだ本)「ウォール街の物理学者」/ ジェイムズ・ウェザーオール

やわなべです。

2013年に出た本で、書店で文庫落ちしてたのを見かけて読んだんですが電子版出てたんですね。

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ウォール街の物理学者

  • 作者: ジェイムズ オーウェン ウェザーオール
  • 出版社: 早川書房

物理学を応用した金融工学は、デリバティブなどの金融商品を生み出しました。その担い手である「クオンツ」とよばれる物理学者たちの活躍の歴史を描く本です。

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物理学者・数学者である著者

本書で描かれるテーマそのものは、ニュース含め、色んな形で知られているわけですが、本書の特色としては、著者ウェザーオール氏自身が物理学者であり、数学者である、という点でしょうか。

金融工学の発展は、物理学的に見てどこが画期的だったのか、物理学者目線からの解説が見られるのかとおもいきや、思ってた以上に読み物としても存分に楽しめる内容で、個々の物理学者のプロフィールや、個人的エピソードにスポットを当てたものでした。

8章の各章それぞれが、ひとりずつ物理学者を主人公にした連作短編のようになっています。ただ、通しで読むと、各章が独立してるんじゃなくて、ひとつの大きなヒストリカルなストーリーになってるんですよね。

LTCMの破綻だったり、リーマン・ショックだったりと、特定の行き過ぎたバッドエンドの記憶から、その元凶としてマイナスイメージも持たれることもあるデリバティブやクオンツですが、実はそれらも含めて、「仮説→検証→反証」の繰り返し、という科学史のプロセスと同じなのだ、そしてそれは現在も、これからもそうなのだ、それが科学というものなのだ、というところが、科学者としての著者の最大のメッセージではないかと感じました。

フィッシャー・ブラックというエポックメイキングな存在

最初の発見は、シュバリエというフランスの風変わりな物理学者が唱えた「株価のバラ付きは正規分布を描く」という説。

物理学徒にも経済学徒にもまともに取りあう人は、なかったんですが、既存のジャンル分けを気にしない型破りなサイエンティストというのは、いつの時代もいるもので、「いや、株価の分布は対数正規分布であって、収益率が正規分布を描くんじゃね(オズボーン)」と考察を一歩進める人や、「いや、収益率)のバラつきは、正規分布よりももっと激しいから予測はできない(マンデルブロー)」という反論が出てきます。

これら研究のひとつの帰結として、5章で本書のハイライト風に描かれるのが、「ブラック・ショールズ方程式」に名を残す、フィッシャー・ブラックです。彼は2つの点で画期的でした。

1. 自分自身がウォール街(ゴールドマン・サックス)でヘッジファンドの管理ポジションにつき成功をおさめることで、本書のタイトル通りの「ウォール街の物理学者=クオンツ」の先駆けとなったこと

2. 彼の方程式による「ポートフォリオの組み合わせによってリスクフリーを実現する」というアプローチによって、金融機関が自在に投資商品を新規開発できるようになったこと。

この2点によって、以後、この分野へ参加する物理学者(クオンツ)の数も、需要も、そしてその影響(いいものも、悪いものも)も一気に拡大していきます。

ブラック後のクオンツ

私が漠然と思い描いてた「ウォール街の物理学者」のイメージも、まさに5章のブラックのままでしたが、もし同じところで情報が途絶えている人がいるなら、6-8章で描かれる物理学者とそのアプローチのお話はかなり楽しめるかと思います。

自分で方程式を導く代わりに、膨大な取引データをコンピュータの遺伝的アルゴリズムにかけ、最善解を得ようとするアプローチを試みるファーマー。大地震の発生や、ものが壊れる過程で見られる特定のシグナルの頻度の推移を研究し、同じ手法でマーケットのブラック・スワンを予知しようとするディディエ・ソネット(実際成功してる)らが紹介されます。

そして最後の章に出てくるワインシュタインは、自らウォール街のクオンツとして経済的に成功しながら、ゲージ理論のアプローチを使って厚生経済学上の問題を解決しようとしています。

まだその試みは道半ばのようですが、このように金儲け以外の目的にも、サイエンスは経済のフィールドで貢献していけるのだ、というのが著者の期待であり、科学者としての矜持なんでしょうね。

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ウォール街の物理学者

  • 作者: ジェイムズ オーウェン ウェザーオール
  • 出版社: 早川書房