読んだ本「戦場の掟」(スティーブ・ファイナル)

やわなべです。

先日読んだ「ウォール街の物理学者」同様、これも文庫落ちしてたので買ったら電子版が出ていたという。まあいいんだけど。

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戦場の掟 (ハヤカワ文庫NF)

  • 作者: スティーヴ ファイナル
  • 出版社: 早川書房

あれは結局何だったんだ」感の強い、2003年のブッシュの戦争後のイラクが舞台。正規の兵士でないにもかかわらず、戦後統治の修羅場で汚れ仕事を金次第で引き受ける民間警備会社、その実態は「戦争下請企業」に他ならないのですが、その実態を現地で取材したルポです。

著者スティーブ・ファイナルさんは、ワシントン・ポスト誌の特派員として2006年に現地イラクで単独取材をし、その後ピューリッツァー賞を受賞したジャーナリストなんですが、本書だけを読んだ個人的な感想を一言でいえば、

「ちょっと残尿感の残る作品」でした。

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戦後のイラクは無法地帯

民間警備会社の立ち位置は、途中出てくる警備員(ぶっちゃけ傭兵なんだけど、関係者すべてが「傭兵」という言葉を避ける)シュナイダーさんのこのお言葉によく表れています。

まあ、おれたちは愛人みたいなものだ」シュナイダーが言った。「イラク復興におれたちを必要としているし、助けがほしい時にはいつでも連絡してくるが、おれたちのことは口にしてもいけないというわけだ。非公式で容認できず認められない存在だからね」

死のリスクはある意味、米軍よりも高いのに、仮に死んでも、戦死者に数えられもしない民間警備会社のスタッフたち。その代わり、その報酬は高く、入りたてのペーペーでも80万円/月とか稼いでます。なもんで、あまり質の良くない輩も集まって、リアル梁山泊みたいになってます。

企業の管理もいい加減で、メールで応募したら2時間後に採用通知が来て、次の週にはイラクの現地でAK-47片手に輸送トラックの護衛したりしてるんですよ。まあ、はっきりいってひどいです。

たまたま選んだ取材先で、事件発生

著者がある意味ラッキー(といっては不謹慎ですが)だったのは、当時、雨後の筍のようにできていた民間警備会社のうち、たまたま取材先に選んだのが「クレセント」という企業だったこと。そしてそこで実際に取材した警備員チームが、取材の1週間後に拉致事件にあい、最終的に全員殺害されてしまった、という事実です。

いろんな思惑でイラクへ集った彼ら普通の人間としてのインタビュー部分と、その後、彼らに降りかかったむ悲運とのギャップに「これは普通に戦争なんだ」と考えさせられます。何よりショックだったのは著者本人でしょう。

眠れない時、私は毎朝日記に書く。「イラクがこうして続けているのは抽象化しているからだ。真の現実や画像や描写がない」

著者にとって拉致された被害者は、ついこの間冗談を交えながらインタビューしたリアルな人間ばかり。なので抽象化ができないんですね。

一方で、こういった事件を我々に知る際には「どこそこで銃撃戦、XX人死亡」といった、極度に抽象化された情報となって、リアルな人間味は全て削ぎ落とされてしまいます。我々はそれを聞いて、多少は心を痛めることもありますが、たいていは消費するだけで、普通の生活に戻っていきます。

ただ、本書を読みすすめると、可哀想な民間警備会社のスタッフ以上に抽象化されてしまってる人々がいることに気づきます。イラクに住む民間人です。

ブラックウォーターというアンタッチャブル

拉致事件などの問題が相次ぎ、さすがのアメリカも2007年、軍の兵力増強を決定しました。新任のペトレイアス司令官は民間警備会社の管理強化にあたるのですが、1社だけ、その米軍ですら管理できないアンタッチャブルな企業がありました。

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ブラックウォーター――世界最強の傭兵企業

  • 作者: ジェレミー・スケイヒル
  • 出版社: 作品社

ブラックウォーター」という、非公式ながら、事実上アメリカ国務省直属のような企業です。彼らには米軍の軍法すら通じず、もちろんイラクの国内法なんて完全無視のやりたい放題。何もしてない民間のイラク人射殺事件を起こしても、「たびたびの警告に従わなかったので発砲しました」というテンプレ回答で、実際にそうだったのかどうかの検証もされず、お咎めもありません。

このブラックウォーターの話は本書後半に出てくるんですが、その悪行三昧を読んでたら、前半の他の警備会社の所業が可愛くすら思えてきます。

現地のイラク人にとっては、彼らの存在は災厄以外の何者でもなく、しかも「横暴なブラックウォーター = アメリカ人の態度」として受け止めらるもんだから「ムダに憎悪を煽って仕事をやりにくくしやがって」と、他の民間警備会社の人間にすら疎まれてます。

ただ実際には、


(「悲しいけれどこれ戦争なのよね」)

ってことで、このような超法規的存在なしには現場が回らないという実情があり、そのとばっちりを食うのはいつも罪もないイラクの人たちです。

ブラックウォーターに対しては、著者も非難と憤慨のトーンで描写してるんですが、中途半端なまま、話は拉致事件に戻り、拉致被害者らの死と、その葬儀の模様をやや感傷的なタッチで描いたところで、本書は終わります。なんか荘厳な雰囲気なんですが、ちょっと待って。

いや、ブラックウォーターどうなったん?、イラクの民間人の安全は改善したの?

という残尿感がぬぐえません。箇条書きでいいから、エピローグなりあとがきで補足してくれたらうれしかったんですが。

あと、取材してる最中にお亡くなりになった著者のご尊父との交流エピソードを、サイドストーリーとして、まるまる1章以上を使って盛り込んでおられるんですが、最後まで読んでも本書のテーマと全然リンクしてなかったです。

著者の人生の中では同時に起こった大切な物語だったのかもしれませんが、ルポ作品としてはカットすべきだったんじゃないでしょうかねえ。

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戦場の掟 (ハヤカワ文庫NF)

  • 作者: スティーヴ ファイナル
  • 出版社: 早川書房