(読んだ本)服従 / ミシェル・ウエルベック

やわなべです。

舞台は2022年のフランス。イスラーム主義を掲げる政党が支持率を上げ、大統領戦の末に、フランスがイスラーム政権となる世界を描く小説。出たのがちょうど、シャルリー・エブド襲撃事件の当日だったことで話題にもなり、その後の、2015年のパリのテロ事件や、イスラーム国、移民問題などのニュースを見るたび、この小説が描くフィクションの世界と、現実の世界との差異を考えるひとつの「ものさし」のようになりうる作品です。

スポンサーリンク

主人公の40代の独身の大学教授の日記調の述懐をベースに、彼がリアルで見聞きするニュースを通じて、イスラーム化が現実となる仏の世界を描きます。教え子の女子学生と付き合ってたりするロマンス要素も多少はありますが、基本、主人公の日常生活は地味。話の展開も行き当たりばったりな印象があるんですが、逆にそれが、自国が粛々とイスラーム化していく現実と、なし崩し的にそれを受け入れざるを得なくなる国民の様子を、リアルに感じさせる効果となってます。狙ってやってるのかどうか知りませんが。

あと、これも狙ってか知りませんが、特に電子書籍で読んでいると、章立ての分量的に、ブログを読んでるような感じなんですよ。「あ、面白そうなブログ見つけた」と思って、過去記事遡って、頭から全記事読んでいってるような。

フランス、イスラーム化するってよ

主人公の目を通じて入ってくる2022年のフランス政界は、2016年現在、実際にある政党も出てきます。極右政党の国民戦線は、ともすれば政権を取ろうかという勢いで、現党首のマリーヌ・ル・ペンも、作品にそのまま登場して演説してたりします。

フィクションの部分は、まんまイスラムの要素。イスラームの教えに基づく政治を掲げる「イスラーム同胞党」と、同党を代表する現実主義的な政治家、モアメド・ベン・アッベスの存在です。2022年のイスラーム同胞党は、政局の中で穏健化し、他党と連携して政権与党になりうるところまで来ています。

こうした政局に対し、主人公は、ニュースや、政権に近い人々との会話を介して接するだけです。物語の最後には、主人公とベン・アッベスとの対話シーンが描かれるのかなー、と期待してたんですけど、なかったですね。ラストではサウジの資本下に入ったソルボンヌ大の中で、自身もイスラームへの改宗を決意する主人公ですが、最後まで傍観者として終了します。

すんなりイスラム化しすぎじゃね?

主人公と同じ傍観者としての目線で、フランスという国が、淡々とイスラーム化していく様子を見るのは、どこか妙なリアルを感じます。戦争になる時って、庶民から見たら、たぶんこんな感じで淡々と進行していくんだろうなー、という感じが。

その一方で、現在のフランスとイスラームとの間の軋轢だとか、決定的な衝突みたいな展開が書かれていないところには、少しリアリティに欠けるかなぁ、とも。ユダヤ系の彼女は家族そろって、いち早くイスラエルに逃げますが、極右政党による政権よりも穏健化したイスラーム化をフランス国民の大多数が支持するまでには、もう少し何かドラマがあるだろう、と思うわけですよ。こんな従順なフランス人、自分の知ってるのと違う。

さらにベン・アッベスが、かつて地中海沿岸を支配圏としたローマ帝国の復活を理想としている、なんて、フィクションとしては面白いですけど、所詮、知識人の知的遊戯の範囲を出ないのかなぁ、との印象も。

まあ、それでも今後は、イスラーム絡みのニュースが出るたび、「ウェルベックが書いた『服従』の世界」になぞらえた評論が出てくるんでしょうね。

「服従」販売ページヘ

服従

  • 作者: ミシェル・ウエルベック
  • 出版社: 河出書房新社