(読んだ本)牛を飼う球団 / 喜瀬雅則

やわなべです。

独特のカバーイラストと、シュールなタイトル、書店のスポーツコーナーで異彩を放っていたこの本を思わず購入、一気読みしました。まだ今年始まったばっかですが、今年読んだ本の中でベストかな。

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牛を飼う球団

  • 作者: 喜瀬 雅則
  • 出版社: 小学館

てか、スポーツコーナーに置いとく本じゃないですよね。たしかに地方リーグの野球チームが主役ではあるものの、真のテーマは地域活性化。もっといえば、過疎化・高齢化で消滅危惧の瀬戸際にある地方の難問題にどう取り組んでいくかという、これからこの国で生きていく人なら誰もが目を背けてはいけないテーマです。

もし「地方に移住したい」とか「地元のために何かしたい」といったぬるい幻想を持ってる若い方がいらっしゃったら、ぜひ「高知ファイティングドッグス」のガチな取り組みをご参照いただきたい。

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牛を飼う球団

というわけで、主役は四国IL(アイランドリーグ)という、野球の地方リーグの中の「高知ファイティングドッグス」という球団のお話。去年後半に、MLBを対談した元阪神の藤川球児選手が、一時所属したことで話題になりました。

野球の独立リーグってのは、社会人野球が衰退する中、プロ野球(NPB)を目指して野球を続けたい、という若者の受けいれバッファ的な役割を期待されています。それが、地方のスポーツ振興や、地域活性のひとつとしても機能すれば、万々歳というところではないでしょうか。

ファイティングドッグズのある高知県は、プロ野球チームがないだけでなく、Jリーグ(J1/J2)、JFLに所属するサッカーチームもありません。加えて、過疎化・高齢化がのっぴきならない日本において、高知はそのトレンドをいち早く先取ってるような状況。近い将来、日本全体が本格的に抱えることになる問題に直面してるんですね。

地場産業がない。雇用がない。若い人から順に人口が減っていって税収が減る。残った高齢者中心の住民向けのインフラや医療体制の維持にはコストばかりがかさんで、さらに財政が悪化するという悪循環ぶり。

そんな中、高知ファイティングドッグスも経営の危機にあったのですが、地元高知の出身で、大阪で不動産業を経営する北古味鈴太郎(きたこみ・りんたろう)社長が、火中の栗を拾う形で、オーナーを引き受け、ビジネス的なアプローチと奇抜なアイデアで、チーム運営の黒字化を模索します。

このオーナー、名前も変わってますが、人を巻き込む魅力のある方のようで、一緒にビジネスをやってた自分の弟やら、企業で働いてた畑違いの専門家らを次々に口説いては、チームに関わらせていきます。

まあ、こういう「人たらし」的な人って、ビジネス界隈では、わりと見かけるものですが、巻き込むだけ巻き込んで、気がついたら当人は別の事業にシフトしていて、連れてこられた人はハシゴ外された形になる、なんてケースもよく見ます。が、北古味氏はちゃんと、巻き込んだ人のその後のキャリアまで視野に入れてるところがすごい。「スキル」や「使い勝手」だけでなく、ちゃんと人を見てるのがよくわかります。

この本の各章は、そうして巻き込まれた人々のストーリーが個別に描かれるのですが、そのエピソードが、ことごとく野球と直接関係ないエピソードばかりで笑います。

・農業事業を立ち上げ、選手自身が農作業をして、できた作物を加工、オリジナルグッズとして販売
・農業高校から牛を買い、食肉になるまできちんと育ててスタジアムの観客向けのフード販売につなげる
・市町村合併が頓挫したほど仲が悪い隣り合わせの町に、それぞれグラウンドと選手宿舎をおき、なし崩し的に2つの町を、ホームタウンとして巻き込む
・アフリカのブルキナファソから育成的に選手を受け入れる
・球団名の名が入った社用車で過疎地の訪問医療を行う。
・リーグの試合のない期間に、二期作の稲の刈り入れに選手を労働力としてレンタルする

収支で言えば微妙なものもありますし、いまだ経営も盤石ということはありません。しかも、本業の野球は、一時的に藤川球児が加入してさえもリーグ優勝できてません。

が、その幅広い活動は、着実に地元高知の人の認知を得、彼らに参加者意識をも植えつけ、更にその輪を県外から海外へも広げようとしています。

それぞれのエピソードは、一見、ネタのように見えますが、実は、自身が高知の山村で育ったオーナーが肌身で感じている「高知が直面する問題」とそれぞれが密接に関わってるんですね。例えば、選手を集客用のタレントとしてだけでなく、過疎化や高齢化地域で最も不足するマンパワーとして普通に活用を考えるところとか。

すでに、この事例を見聞きして、同様に過疎化・高齢化に悩む自治体などが、高知へ視察詣でをしてるのかもしれません。ただ、著者も書いている通り、この本に書かれたファイティングドッグズの取り組みを、そのままマニュアル化して、別の自治体に適用して成功するかといえば、そんな簡単なものではないんですよね。仮に、この敏腕オーナーをトップに招聘し、別の地域の再生プロジェクトを任せたとしても、同様に機能するとは限らないでしょう。

「地域密着」
昨今、スポーツクラブの経営における理想型として、このフレーズがそれこそお題目のように唱えられている。しかし、果たしてそのコンセプトを、どれだけ具体的なアクションへと落とし込めているのだろうか。

学校訪問、施設慰問、地域のゴミ拾い、ボランティア活動。

「地域のために」「子どもたちのために」「人々に勇気を与える」

耳触りのいいフレーズは、その受け手たちが果たして、本当に望んでいることなのか。

過疎化、高齢化は地方共通の課題ではありますが、その症状や打開策へのキーは複雑多様で、その土地土地によって、変わるはずなんですよね。綺麗事だけでなく、その土地のことを知った人が、本気で現状を憂い、もがきながら、必死で取り組んで、はじめて、いくらか道が拓けてくるかも、といった、そんなものなんだろうと思います。

いや、いい本を読みました。しかしこれ、背後に重要なテーマを提示しつつもビジネス本的に楽しむこともでき、小説としても読めるんで、売れるんじゃないでしょうか。

北古味オーナーの次のビジネスは、このストーリーをコンテンツ化し、映画などの形で売ること、なのかもしれません。

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牛を飼う球団

  • 作者: 喜瀬 雅則
  • 出版社: 小学館