(読んだ本)「五代友厚」 / 織田作之助

やわなべです。

私は見てないのですが。NHK朝の連ドラ「あさが来た」で五代友厚役を演じたイケメン俳優、ディーン・フジオカさんが人気だそうですね。

五代さんといえば、明治の大阪の商業発展に尽力した方として有名で、北浜にある大阪証券取引所や、大阪商工会議所には、それぞれ五代さんの銅像が立ってます。

が、そのわりにはイマイチ認知度が低い。私は幼少から大阪で育った身ですが、「地元の偉人」として教わった記憶はありません。朝ドラを見て「こんな人だったんだ」と改めて知った大阪人も少なくないんじゃないでしょうか。

ディーンさんの人気もあってか、書店へ行くとドラマの原案本と並んで、五代さんをモチーフとした本が並んでます。その中にこんなのがあるじゃないですか。

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五代友厚 (河出文庫)

  • 作者: 織田作之助
  • 出版社: 河出書房新社

「夫婦善哉」などで有名な、無頼派を代表する小説家、オダサクこと織田作之助さんの作品です。「へぇー、オダサクさんが五代さんの評伝書いてたんだ」と読んでみることに。

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オダサクが書く「五代友厚」

この本、あとがきに朝ドラへの言及があるように、朝ドラ需要にあてこんで急遽企画した本と思われます。で、ひとことで評すると、もろもろ中途半端な本です。

内容はタイトルまんまの「五代友厚」という200ページくらいの小説と、100ページくらいの「大阪の指導者」というタイトルの評論文の2本立て。オダサクさんの作品は「夫婦善哉」など、多くが青空文庫でも読めるんですが、この2作はなかったですね。

まず小説である「五代友厚」なんですが、アラサーくらいの五代さんが世界を学ぶべく、欧州への視察にいざゆかん、、、というところで唐突に終わってしまいます。五代さんの活躍ぶりは、その洋行帰り以降のことなんですが。もちろん大阪での活躍も全く出てきませんし、物語としても全く不自然な終わり方です。

あとがきによると、この作品は新聞連載小説だったようですが、なんらかの事情で打ち切りになったんでしょうかね。そのあたりの事情までは書いてなかったのですが。

話は幕末の生麦事件の描写から始まります。薩摩の島津久光公の行列を横切ったイギリス人の民間人を殺傷、後に外交問題に発展した事件です。五代さんが薩摩の人とは知ってましたが、生麦事件に関係してるとは知らなかったなー、と思いながら読み進めます。

被害にあった哀れなイギリス人の描写などは事細かに書かれるのですが、40ページほど読み進んでも五代さん、全然出てきません。しょっぱなから五代ロスです。

実は当時20代半ばだった五代さん、この事件がきっかけとなって、その後に起こる薩英戦争の時に、乗ってた商船が英国艦隊に拿捕されてしまい捕虜になってしまうんですね。オダサクさんは、その時代背景の説明のため、あえて生麦事件から書き起こしたと思われますが、小説が途中で打ち切りになったため、結果的に作品の1/5を主役不在の生麦事件の描写に割り当てるというバランスの悪い構成になってしまってます。おそらく予定では少なくとも3倍くらいのボリュームの作品になるはずだったんじゃないでしょうか。

藩の中枢も認める優秀な若者で、弁が立って、度胸もあってさわやかで、、と好感度の高い人物像はいきいきと描写されているので、続きが読みたくて仕方がなかったです。

「大阪の指導者」

後半の「大阪の指導者」はがらりと雰囲気が変わります。一応、五代さんの生涯をひととおりなぞってはいるのですが「五代友厚」と違ってセリフのやりとりが出てくるような小説形式ではなく、研究者が書いた新書のような感じの作品で、ややとっつきにくい印象です。

五代家の由来から説き起こしてみたり、かしこまった公式文書の原本をそのまま引用してあったり、と、資料としては価値があるのかもしれませんが、お話として面白く読めるようなものではありません。

五代さんは「西の五代友厚、東の渋沢栄一」と並び称されるように、大阪証券取引所や大阪商工会議所の設立に関わったり、大きな仕事をいっぱいされた方なのに、なぜかそれよりマイナーだったり、評価が微妙な仕事ばかり取り上げて紹介してるような節があるんですよねぇ。読み手としては地元の大恩人として崇めたてる気まんまんで読んでるのに、なかなかその機会が与えられません。

てかオダサクさん自身、この作品の冒頭、このように嘆かれてるんですよ。

豊臣秀吉は大阪開発の第一の恩人である。そして友厚は秀吉に次ぐいわば第二の恩人である。秀吉以後の、いや少なくとも明治の大阪の指導者として、開発者として、友厚の右に出る人は一人もないはずだ。(略)それほどの人が忘れられているのである。明治の先覚者中このように綺麗に忘れられている人、もしくは誤り伝えられている人は、他にちょっと見当たらぬくらいである。私の言いたいのはここだ。

なぜ、この意気込みが空振りしたような作品になっているのか考えるに、どうもこの五代さんという方は、役人としても、実業家としても、その成功に対して、常に嫉妬や毀誉褒貶が生前からつきまとった方のようなんですよね。実際には、実業で得た利益を別の事業の資金に投じることの繰り返しで、死後には資産どころか借金が残るくらいでした。私利私欲で行動する人ではなかったんですよね。

オダサクさんは本作で、世間の間違ったイメージを払拭しよう、という強い使命感を持っているように感じました。それが、もともとそのような悪いイメージ持ってない人からすると「もっと盛り上がるエピソード紹介してくれたらいいのに」という印象になってしまうのかも。

五代友厚と同じ年に生まれ、同じく先進的な開国思想と実業家精神をあわせ持った人物に坂本龍馬がいます。多くの人が龍馬に対して「先進的な改革者」みたいなイメージを持ってると思いますが、本書の五代さんの言動を見てると、むしろ五代さんこそ龍馬の先行者というかその原型のように思えてきます。

司馬遼太郎氏が、龍馬を魅力的なヒーローとして小説に仕立てあげたのと同様、もし小説版「五代友厚」の連載が続いていたならば、後世の人々が読みつぎ、誇りに思えるような五代友厚像が描かれたのかもしれないのになぁ、と少し残念に感じました。誰か続きを書いてくれないかしら。

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五代友厚 (河出文庫)

  • 作者: 織田作之助
  • 出版社: 河出書房新社