(読んだ本)「キャプテンシー」鳥谷敬

やわなべです。

タイガースファンとして、お布施感覚で予約購入した阪神タイガースのキャプテン、鳥谷敬選手の著書です。

現役選手の著書、しかもお立ち台のインタビューで毎回定型コメントしか言わない鳥谷選手とあって、「当りさわりのないことしか書いてないんだろうなー」と、期待も薄かったのですが、面白かったです、予想外に。

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キャプテンシー (角川新書)

  • 作者: 鳥谷 敬
  • 出版社: KADOKAWA / 角川書店

この本、帯にこうあります。

僕は僕のやり方で阪神を変える!

いかにもキャプテンらしい頼もしい意気込みですが、読んでみると、ややニュアンスが異なることがわかります。「キャプテンの意味もよくわからないし、そもそも自分には向いていない。自分のやり方でやるけど、うまくいくかは各選手の自覚次第だろう」、といった調子。

彼に持ってたイメージ通りといえばそうなんですが、この本は、このような、ともすればアスペぎりぎりの率直すぎる述懐に満ちています。「キャプテンシー」というタイトルですが、それが何かはわからない、ということがわかる本です。

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鳥谷キャプテン語録

スポーツ選手の自著本の楽しみは、「物議をかもしたあのシーン、実は本人はこう考えていた」という部分でしょう。 鳥谷選手でいえば、2013年のWBCの台湾戦、1点ビハインドの9回ツーアウトの状況で、よもやの盗塁を仕掛けたシーンであったり、2014シーズン終了後の海外FA宣言、その後の阪神残留までの心境なんかを読み手としては期待するわけですよ。

たしかに、それらについての見解も聞けるのですが、本書の最大の面白味は、彼のドライさ、そっけなさそのままに語られる、努力観、成功観、職業観です。 言葉や表現はマイルドなんですが 「あー、それ言っちゃうんだー」という言葉のオンパレード。

「プロ野球選手になりたい、なろう」と僕が考えたのは、もちろん野球が好きだからだが、「お金をたくさん稼げるから」という理由でもある。

いや、そりゃまぁ、みんなそうだろうけどさ…

極論を言えば、ほとんどの選手はこう考えていると思う。「自分が打てれば、抑えられれば、それでいい」
自分が活躍すれば、チームが負けてもいいというわけではもちろんない。ただ、「自分が打てなくてもチームが勝てばいい」とは僕には考えられないのだ。

キャプテン….

おそらく骨を埋めることになるであろう、阪神タイガースというチームに対する思いも聞いてみましょうか。

僕にとってタイガースは「就職先」だった。入団するとき「仕事をする場所」として僕はタイガースを選んだ。僕は関東の出身で、正直子どもの頃から憧れていた球団ではない。それでもタイガースを選んだのは、そこで「仕事」をしていくことが、将来の自分にとって、最も適した環境だと思ったからだ。

彼の言ってることは、どれもこれも理にかなっているのですが、一抹の寂しさを禁じえません。

彼の言う「将来」ってのは引退後のキャリアのことじゃないですよ。彼は常に大きな長期目標を定め、それを成し遂げるためにどうすればよいかを逆算で考えるタイプです。マラソンランナーがオリンピックの日取りにあわせて何年も前から準備をするように、毎日の試合や練習に取り組んでいます。その長期目標とは、プロ入りまでは「プロ野球選手になること」そして、その後は「メジャーでプレーすること」だったんですね。

鳥谷流逆算思考

メジャーに行くことを密かな目標と定めた鳥谷選手は逆算思考を働かせます。

「メジャーでプレーする可能性を高めるにはどうすればいいか?」
→ ニーズを考えれば、野手の場合、イチロー選手に代表されるような「守備、走塁に穴がないアベレージヒッター型の選手」を目指すべきだろう。

「その評価を得るにはNPBでどう過ごすべきか?」
→ レギュラーとして試合に出続け、安定した成績を残すことだ

「試合に出続けるにはどうすればいいか?」
→ 怪我がちだったり、好不調の波が激しかったり、守備に不安があると、交代させられる可能性が高く、試合に出続けられなくなる。練習で補える守備力を高め、かつ、怪我のリスクを最小にする必要がある

「怪我のリスクを減らすには?」
→ 土のグラウンドをホームとする球団でプレーすることが望ましい。

はい。土のグラウンドである甲子園をホームとするタイガースに所属し、守備・走塁に穴のない、アベレージヒッタータイプで、怪我の少ない「鳥谷」という内野手像は、実は彼自身が逆算思考で求めた目標実現のための最適解だったんですね。

「仕事としての野球」をどうすれば効率よくこなせるのか、個人事業主としてビジネスライクに考えている様子が伺えます。鳥谷選手は誰よりも練習熱心なことで有名なんですが、「どうして努力し続けることができるのか?」という問いへの彼の答えはこう。

自分では努力と思っていない。僕のなかでは、努力とは「自分がやりたくないことをしなければいけないとき」に要する労力をいう。(略)「これをやることで何かを手に入れることができる」そう考えることができたら、僕にとってそれは努力ではなくなる。

この言葉、精神論ではなくビジネスとしてのアプローチだと考えると、すんなり腑に落ちます。

鳥谷流キャプテンシー

こんな調子で、PDCAサイクルを回して目標実現の確度を高めていこうという方ですから、他人の動向については関心が低いです。

人のために時間を割くのなら、その時間を自分のために使ったほうが、トータルとしてはチームのためになる

僕は、間違ったことをしている人を見ても「この人はそういう人間なんだ」そう思うだけだった。「こういうところを正せば変わるのだろうな」 そこまで考えることがない。

で、金本氏に「お前は自分のことしか考えていない」と、ツッコまれるわけですね。

が、ここまで見てきた鳥谷流に考えれば、個人事業主の集合体であるチームにおいて、「キャプテン」って一体なんなんだろう? という素朴な疑問に立ち返らざるを得ません。新監督に就任した金本氏には「変われ!」と促されたそうですが、根本的なところで彼の信条がブレることはないでしょう。

このドライなキャプテンシーに呼応して今季のタイガースが奮起するかどうかはわかりませんが、少なくとも彼がキャプテンという立ち位置への戸惑いから自分の調子を崩す、なんてことはありえないでしょう。

そんな鳥谷さん、自身の引退後はこう考えているようですよ。

現役を退いたら、監督やコーチになる気はない。解説者になるつもりもない。人に教える柄でもないし、自分がプレーしていないのにあれこれ言われるのはたまらない。人を批評したり、評価したりするのも好きではない。できれば、引退後は野球とはまったく関係ないところで生きてゆきたい。

なぜか、セカンドキャリアの事業で成功している鳥谷選手のイメージが鮮明に浮かぶんですが、気のせいでしょうか。

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キャプテンシー (角川新書)

  • 作者: 鳥谷 敬
  • 出版社: KADOKAWA / 角川書店