(読んだ本)「科学の発見」スティーヴン・ワインバーグ

やわなべです。

盆中まとまった時間があったので積ん読だった「科学の発見」を一気読み。事前に予想してた「風変わりな物理学者によるラディカルな科学史」とはぜんぜん違う、まっとうな、教科書的価値の高い本だと思いましたよ。

スポンサーリンク

「科学の発見」 スティーヴン・ワインバーグ

「科学の発見 (文春e-book)」販売ページヘ

科学の発見 (文春e-book)

  • 作者: スティーヴン・ワインバーグ
  • 出版社: 文藝春秋

ベースは著者が務める大学の物理学専攻の学生向けの科学史の講義がベースです。数式こそ出てきませんが、私のような門外漢向けの読み物としてはやや難しいと感じるところもあります。盆休みの息抜きの読み物として一気読みするのはあまりおすすめしません。大学の一般向けの公開講義に参加するくらいの感覚でどうぞ。

この本、出版社のウリ文句は煽りまくりです。

本書は不遜な歴史書だ!

ギリシャの「科学」はポエムにすぎない。
物理こそ科学のさきがけであり、科学の中の科学である。
化学、生物学は物理学に数百年遅れていた。
数学は科学とは違う――。

これだとまるで著者がガチガチの物理学至上主義者みたいですが、実際読むと、そんな印象はまったくありません。むしろクソがつくほど真面目で、批判するにあたっても科学者としての客観的態度を失わず非常に慎重です。大学生向けの講義録ですからね。

数式など詳細は巻末のテクニカルノートに補足でまとめてあるんでガチ理系の学生さんでも問題なし。ただし、これ一冊で現代まで続く科学史が俯瞰できるかというとそうでもなく、せいぜい17世紀のニュートンまでです。というのもこの本、本題は「To Explain the World: The Discovery of Modern Science」でして、現在我々がサイエンスと認識する「近代科学」のスタイルにどうやって行き着いたかを記すのがこの本の主題なんですね。そして、それを完成させたのが他ならぬニュートンだということ。

具体的には古代からずっと研究対象として存在してきた天体の運行研究の変遷が話の中心なんですが、ツッコミどころも多かった古代ギリシャの天動説(アリストテレス派とプトレマイオス派)から中世イスラム圏での研究、コペルニクスの展開を経て、ケプラー、ニュートンに至って人類は世界を説明するに足る統一的な科学理論に行き着きます。

逆に言えば、ニュートン以前の「サイエンス」は、現代人からみた知識や技術の未熟をさておくとしても、現在のサイエンスと同一のものと考えるのは難しいということ。煽り文句にある「ギリシャの科学はポエムにすぎない」ってのは、そうした知識や技術の未熟さではなく、現代の科学が事象に対して取るアプローチ、仮説をたてて、実験を繰り返して客観的に評価できる学説を構築していくスタイル。本書が書くのはこの「科学者という態度」をどうやって人類が獲得したかの歴史です。いわばこれ、科学史というより、科学精神史ですね。

その精神史をこれから科学を学ぼうという学生向けに示そうとするわけですから、本書が率先してその精神を模範的に示そうとするのは当然です。

いや、娯楽めあての読み手としては正直、「古代の稚拙な論説に何もそこまで生真面目に批判せんでもいいでしょ」とか「だいたいわかったからその説明はしょろうよ」とか思う箇所もあるんですよ。批判する文脈でも「もう少しユーモアまぶしてくれたら読み物として面白いのになぁ」とか。ただ、若者に精神史を伝えるというスタンスである以上、本書はこの生真面目さで貫く必要があったんでしょう。

そんな感じで淡々と語りかける本書ですが、ニュートン、というか人類が「科学を発見」するまでの道のりまでようやく話し終えた最後になって、ちょっとだけ「ポエム」っぽくなります。

アポロニウスとヒッパルコスの周転円と離心円にエカントを付け加えれば惑星の運行をかなりの正確さで予測できるようになると気づいたときの、プトレマイオスの喜びはどれだけ大きかったことだろう。(略)

プトレマイオス・モデルのファイン・チューニングと螺旋起動の原因は単に、動いている地球から太陽系を見ているせいだったのだ、と気づいたときのコペルニクスの喜びはいかばかりだったろうか。(略)

コペルニクスの込み入ったモデルを自らの三法則に従って楕円軌道に置き換えたとき、数学の才に恵まれたケプラーはどれほどの喜びを味わっただろう。

つまり、世界はわれわれにとって、満足感を覚える瞬間という報酬を与えることで思考力の発達を促すティーチングマシンのような働きをしているのである。(略)

人類の世界の理解は蓄積していくものだ。その道のりは計画も予測も不可能だが、確かな知識へとつながっている。そして道中、われわれに喜びを与えてくれることだろう。

本書が不遜だなんてとんでもない。過去への尊敬と未来への希望に満ち溢れた本だと感じました。

「科学の発見 (文春e-book)」販売ページヘ

科学の発見 (文春e-book)

  • 作者: スティーヴン・ワインバーグ
  • 出版社: 文藝春秋