(読んだ本) 熱狂する「神の国」アメリカ 〜 大統領とキリスト教

やわなべです。

アメリカ大統領選挙と同国の宗教との関係をと数時間でざっと俯瞰するにぴったりな本、『熱狂する「神の国」アメリカ 大統領とキリスト教』を読みました。

「日常生活において宗教は需要か?」という問いに「非常に重要」と答えるのは、イギリスで12%、フランス10%、ドイツ8%。一方アメリカは実に60%なんだそうで、アメリカは同じキリスト教国の欧州と比べても「神の国」なんですね。

当然、その首領を決める大統領選挙においては、各宗派の支持を得ようと選挙戦略が組まれます。たとえば共和党候補として立候補していたジェブ・ブッシュさんは、プロテスタントからカトリックに改宗してるんですが、これも選挙をにらんでの思惑があったと思われます。

ちなみにトランプさんはプロテスタントの長老派、ヒラリーさんはメソジストです。大統領選は、政局や政策の主張だけ追ってもイマイチよくわかんないところがあるんですが、今回これを読むことで、隠れてた部分を見る視点を大いに得た気がします。

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福祉は宗教の仕事です

ブッシュジュニア時代によく聞いたくようになったプロテスタントの「福音派」。妊娠中絶や同性婚への反対といったテーマに対し、時に過激な行動を伴う原理主義的保守派というネガティブなイメージも強いですが、実はそういった層が主流になったのは1970年代以降で、その転機になったのは1980年のレーガンの選挙戦略だったそうな。

七六年の大統領選で共和党のフォードに勝利した民主党のカーターの政策は、本人が南部の福音派出身であるにもかかわらず、政治的にはリベラルな態度で、福音派の特に原理主義者など、宗教右派から強い反発を買うことになる。この時点が、福音派の中でも宗教右派を掲げる「モラル・マジョリティ」に代表されるキリスト教原理主義団体の誕生であった。カーター以降、民主党を支持していたり、無党派だった南部福音派が共和党支持へと鞍替えしていき、さらに従来は投票や政治行動に感心がなかった福音派のグループの幾つかが政治化された。

この時、レーガンの選挙陣営の宗教対策で重要な役割を担ったのがカリスマ伝道師、ファルウェル牧師。彼の影響でそれまで無関心層だった右派が政治化され、共和党の票田に育てあげられた経緯がわかります。

この層は、オバマさんが導入した国民皆保険(オバマケア)などの福祉政策に反対の立場なんですが、その考え方が日本と真逆で面白いです。

キリスト教右派は、健康保険などをふくむ福祉政策は、キリスト教徒によるチャリティー活動などのボランティア活動によればいいと考えており、国家の税金を使った政策は世俗的で強制的であることから、キリスト教的な理念に反するとして嫌っている。国家の役割はこうした人々の生活に介入することなく、できるだけ小さい存在であることが、キリスト教右派には理想的なのである。

小さい政府を思考するのは個人主義的な信条だけでなく、宗教的な背景もあるんですね。実際、最終章で紹介される、メガチャーチ(プロテスタント教会を中心とする巨大アミューズメントパークみたいなもの)のルポを読んでいると、同国民が国よりも宗教の方が期待を寄せるのも理解できるし、何より冒頭の「宗教は非常に重要だ」というスタンスも納得できます。

ややこしいのは、この宗教観に基づく「小さな政府志向」が、外交面においてはアフガニスタンやイラクへの派兵を含む十字軍的な積極介入を支持するという点。この点が同じく小さな政府を標榜しながらも外交面で孤立主義を主張するティーパーティーと異なります。

そんな中、最大の浮動票と言われるのがカトリック。で、この本、アメリカにおけるプロテスタントとカトリックの位置関係とその歴史にやたら詳しいんですが、著者は歴史学者でよく見たら「バチカン近現代史」書いた方じゃないですか。そりゃお詳しいはずです。

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バチカン近現代史 (中公新書)

  • 作者: 松本 佐保
  • 出版社: 中央公論新社

そのカトリックの長、ローマ教皇は、トランプ氏の「メキシコとの国境に違法移民を防ぐ壁を作る」という主張に、「壁を作るのはキリスト教徒のすることではない」と批判しました。それでもトランプ氏には、違法移民出身であるはずのカトリックのヒスパニックから一定の支持があるんだから、わからないもんです。

そんな感じで、本書は現在アメリカの宗教事情を考えるための要素を凝縮したような本でした。ただ、各宗派の背景を中世の宗教史から説明するなどやや詰め込みすぎかな、と感じるところも。本書に関していえば、ユダヤロビーとシオニストの歴史を1章かけて説明するくだりは端折ってもよかたんじゃないでしょうかね。

とはいえ、アメリカ宗教事情を考えるコンパクトな手引書としては最適だと思うんで、ここを起点にいろいろ考えるにはいいんじゃないかな、と思いました。