「逆転の大中国史」「その日暮らしの人類学」ほか今週読んだ本5冊

やわなべです。

「読んだ本のレビューを1週間ぶんまとめて書いたら、いい振り返りになるし、1つずつ書評エントリー立てるより気軽に書けるんじゃないか?」

…そう考えて先週始めたこの企画。1回目は力加減がわからず、5000字に及ぼうかというボリュームになってしまいました。「気軽に書けるんじゃないか」とか言ったやつちょっとこい。

「日本財政を斬る」「東芝 粉飾の原点」ほか、今週読んだ本5冊

というわけで今後はアマゾンレビューくらいのライトさで書いていこうと思います。

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『逆転の大中国史』 楊 海英

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逆転の大中国史 ユーラシアの視点から

  • 作者: 楊 海英
  • 出版社: 文藝春秋

著者はニューズウィーク日本版で中国関係のコラムを書いておられる方で、内モンゴル自治区のオルドスのご出身。コラムでもチベットやウィグル目線での中国批判をよく書いておられますが、本書のテーマはそうした、これまで「中国史」の外部として、非文明的な蛮族として認識されがちな遊牧民族目線で、中国史をなぞってみようという試みです。読むとわかりますが、岡田英弘氏や杉山正明氏など、著者が師事した日本の学者の説を多く敷衍する内容で、引いては、現在に続く漢民族の中華思想を批判するもの。

引用される日本人学者のユーラシア史研究の本は私も何冊か読んでますが、本書の良さはそこに著者の生まれ育ったオルドスの回想風景が重なってるところですね。どの時代の章でも「私の家の近所にこの時代の遺跡があって…」というエピソードがプライベートっぽい写真とともに紹介されてて、かつて、その地を馬に乗って疾走したであろう匈奴や契丹人らのイメージを湧きたてられます。オルドス行きたくなってきた。

『その日暮らしの人類学』 小川 さやか

著者がフィールドワークを通じて関わったタンザニアの庶民の生活ぶりなどから、勤勉性、効率性が重視される資本主義的な生き方以外のオルタナティブを探ろうとする本。ボリュームは大したことないですが、本人もあとがきでおっしゃるように、論文調の硬めな文章も多く、やや読みづらいところも。

この問題は「大きな政府」と「小さな政府」という文脈でも考えることができます。たとえば日本は、行政があらゆる福祉、社会保障をケアする「大きな政府」の代表ですが、その割に、一歩レールをはみ出すと、途端に生活が行き詰まってしまう面があって、結局誰もがキャリアプランや老後の不安を抱えて生きないといけない窮屈さがあります。

一方、「小さい政府」なタンザニアの庶民社会では、行政のケアが完全には行き渡らない中、知り合い同士の範囲で、行き当たりばったりながら自活する余地がある。人々も行政による社会保障の代わりにそれを頼りにしているきらいがいある。

後者は経済的な豊かさで言えば貧しいけれども、一概に「発展途上」で片付けるのではなく「これってオルタナティブな生き方なんじゃね?」という問題提起ですね。

ただ、今の日本社会に部分的にであれこのインフォーマル要素を併存させることができるか、というと現実問題難しいわけで。公的なものじゃない、競争社会からの落伍者を許容しうるアジール的な場、ってことなんでしょうけど、それって「熱狂する「神の国」アメリカ」で見たように宗教の仕事なんじゃないの、という気も。

『細胞の中の分子生物学』 森 和俊

DNAとは、タンパク質とは、という高校の化学レベルから始まって、「ああ、これは復習にいいや」と読み進めてたら、いつの間にか、ノーベル賞レベルの最前線の研究にまで踏み入っている、という守備範囲の広い本です。著者はすでにノーベル賞への登竜門ともいわれるラスカー賞を受賞した研究者で、もし本テーマで、来月発表されるノーベル賞受賞、なんてことになった暁には、本書がその研究内容の格好の解説書となることでしょう。てか、もしかしてそれ見越してます?

その最前線のテーマってのは、細胞内の小胞体におけるタンパク質生成現場の品質管理みたいな話です。メーカーの工場と同じで、タンパク質の生成現場では一定比率で不良品ができるんですが、ヒトなど哺乳動物の場合、その対処の仕組みが3系統備わっているとのこと。その3つを信長・秀吉・家康の性格の違いを詠んだホトトギスの歌になぞらえて紹介するところは粋ですよね。

『関ヶ原』(上・中・下) 司馬 遼太郎

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関ヶ原(上)(新潮文庫)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社: 新潮社

先々週の「真田丸」の「超高速関ヶ原」に触発されて読み始めたんですが、さすがに3巻1000ページ超は一気読みできず、ちびちび読んでたら2週間かかりました。

関が原の筋書きは誰もが知るところですが、改めて考えると万単位の人間(しかも同族)が、殺し合いする、ってのは常軌を逸した世界です。本作は多くの関連人物とその人間模様を一枚の大きな図屏風に散りばめたような、ある意味「関ヶ原事典」的な作品ですが、そんな中、ポイントポイントで出て来る藤原紀香、じゃなくて藤原惺窩がいい味出してます。武士でない学者という目線から、この世界の異常っぷりに、都度読者を立ち返らせる役割をさせるあたり、なかなか巧い演出だなと。

あと、序盤、謀略を駆使して豊臣政権の権力と遺産をじわじわ簒奪していく家康をいかにも憎たらしく描写するあたり、やっぱ司馬さんも根は大阪人なのかなぁ、と感じました。

『こち亀』(第200巻) 秋本 治

単行本買うのは初めてですが、まあ、縁起物ってことで。

久しぶりに読むと、両さんの存在感の透明さがさらに高まったような気が。反面、各回のテーマのディティールは相変わらずで、その対象もドローン、ボーカロイド、EV(電気自動車)、ビーム式のサバゲーなど、とても還暦すぎた作者のチョイスと思えません。しかもそれぞれが通り一遍の紹介にとどまらない凝りっぷり。

時代が移り、技術が進歩する中「遊びとは何か、遊びが人生になぜ大切なのか」を、この国の男子(一部オッサン含む)に40年間説き続けた功績は計り知れないんじゃないでしょうか。今後、この役割を担うような作品がはたして現れるんでしょうかね。

まとめ

今週は雨の休日が多く、ムダに読書が捗りました。こんなペースで読めるのたぶん今週までかと。