「ケインズかハイエクか」「人工光合成とは何か」ほか、今週読んだ本5冊

やわなべです。

なんとなく板についてきた感もある、週間読書メモでございます。

今さらですが、読書録を週単位でまとめるのって、新刊にこだわらずに紹介できるというメリットがあることに気づきました。

「ブログに書評を書こう」と意気込むと、どうしても新聞・雑誌の書評欄のような新刊レビューを書かなきゃいけないように感じますが、実際の読書って、積ん読あり、再読あり、1冊を軸に芋づる式に参考図書をあさったり、大著を2ヶ月かけてじっくり読んだり、と多様なわけですよ。そんな人生の中で連続する読書体験を定期的に区切って振り返るには、このスタイルがちょうどいいんじゃないかと。

今週の1冊は、先月出た文庫版が出たので読んだ「ケインズかハイエクか」です。

スポンサーリンク

ケインズかハイエクか / ニコラス・ワプショット

だいぶ前、この両経済学者がラップバトルするという動画がYoutubeで話題になったことがありました。

この動画のキャラ付けのように実際ケインズは当代きってのスーパーセレブだったんですよね。本書を読むと、駆け出しのハイエクがセレブ・ケインズに売名行為的にからんで行った点もなくはない。論争上手だったケインズもまた、そんなハイエク(というかオーストリア学派)を挑発することで、マクロ経済学という視野を初めて持ち出した「一般理論」を炎上商法的に広めようとしたフシがある。

実はこの本の半分くらいのところでケインズさんは亡くなってしまいます。が、両派の論戦はその後、現在にまで続いているわけで。これは両者の経済学的主張の差異というより、「大きな政府 vs 小さな政府」という構図に集約されたからなんでしょう。経済学って自然科学みたく実験で検証ができるものじゃないんで不毛な議論になりがちなんですよね。他者の主張を批判しようとしたら、その前提条件や定義に噛みつくしかない。直接の両者の応戦でもぜんぜん噛みあってない様子が伺えます。

本書後半は、主に戦後の米国経済が、この両派の考えを軸にどう展開していったかが語られます。80年代まではずっとケインズ主義優勢でした。まあ、不況時に権力の座にある政治家は、財政出動でなんとかしよう、また、そうするよう期待されるのが自然なわけで「大きな政府」を志向するケインズ的施策が取られがちな点はあります。例外的に米レーガン、英サッチャー政権がハイエク主義的運営で成功したと認識されていますが、レーガンによる財政赤字の肥大化を見れば「どこが小さな政府だ」と思いますよね。

そう考えると、在任中にプライマリーバランスの黒字化を導いただけでなく、その利益を他の用途に使わず、国の借金残高を減らすのに使ったビル・クリントンすげーな、と。地合いの要素もあるんでしょうけど、先日読んだ「日本財政を斬る」でも、マイナス金利中にに、これやっとかないとホントやばいよ、と指摘されていることを実際にやったのがクリントンさんなんですよね。

「人工光合成」とは何か / 光化学協会編

本書はよくできたプレゼンみたいな構成で、最初に「人工光合成」というゴールの定義を明確にした上で、自然の植物が行っている光合成の仕組みを説明、それを人工で実現する3パターンのアプローチを紹介、最後に現時点でのその進捗具合を報告する、という内容です。

その2章で説明される、身近な植物がやってる光合成の仕組みがですね、神々しいまでに複雑でややこしい。本書は全編、化学式を用いた手加減なしの説明が続いてて、挫折者もさぞ多かろうと思いますが、この2章まではがんばって読んだほうがいいです。ここ読んだらベランダの観葉植物を見る目が変わりますよ。

思えばシンゴジラは細胞内(細胞膜?)に元素を自在に変換する微生物(リボゾームみたいなものか)を内包しているという設定でしたが、その発想の源は他ならぬこの植物の光合成メカニズムなんじゃないでしょうか。その仕組みが複雑なぶん、人工化のアプローチもなかなか難しいようで。

光と水を原料にエネルギーを作り出し、ってのはまさに現代の錬金術です。ついでにその過程でCO2が削減できたら地球温暖化の解決にも寄与するわけで、その分野で日本の研究が第一線に立っている、というのはそれだけで誇らしく感じますよね。

縄文の神 / 戸矢 学

「縄文の神: よみがえる精霊信仰」販売ページヘ

縄文の神: よみがえる精霊信仰

  • 作者: 戸矢 学
  • 出版社: 河出書房新社

去年「諏訪の神」を紹介した戸矢さんの新刊。今の形式での神社信仰ができる前の縄文期のアニミズム的な古神道を、ヒモロギやイワクラ、カムナビなどを手がかりに探っていきます。

あとがきに本書は「諏訪の神」「ニギハヤヒ」といった過去の著作の論考を深化させたもの、とありますが、逆に本書こそ著者の研究テーマをサマライズしたもので、それらを個別に深く掘り下げた論考が、「諏訪の神」などの著作なのかな、と。

戸矢さんの著作の特徴はなんといっても歯切れの良さですね。考古学や民俗学まわりには、根拠の薄い論考で、ひとりよがりの「大胆仮説」で突っ走るものも多く、もしかしたら本書もプロパーな学会方面からそう評価されてるのかもしれませんが、個人的には論旨も納得できると感じますし、なにより読み物として面白いです。

ただ、初めて読む方にはやっぱり個別テーマを掘り下げた、「諏訪の神」がおすすめですかね。

中国の論理 / 岡本 隆司

「中国の論理 - 歴史から解き明かす (中公新書)」販売ページヘ

中国の論理 - 歴史から解き明かす (中公新書)

  • 作者: 岡本 隆司
  • 出版社: 中央公論新社

中国近現代史の専門家である著者が、中国史をベースに、いつまでたってもよくわからない隣人の行動論理を説明しましょう、という本。8月に岩波新書からも「天下と天朝の中国史」という、同じようなアプローチの本が出てて、どっちを読もうかと思ったんですが書店でパラ見して語り口が軽快だったんでこちらをチョイス。

思った通り、出だしから饒舌すぎるほどに軽快な口調で、古代からの中国の行動論理を「士」と「庶」、「華」と「夷」といった二元論で明快に解説していきます。が、後半、ご専門の近現代史にかかると、なぜかこの軽快さが消えてしまい、教科書的な概説になってしまったのが残念。裏にある論理構造を聞きたかったのはむしろ20世紀の諸革命なんですけどね。

ゼンデギ / グレッグ・イーガン

「ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)」販売ページヘ

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: グレッグ イーガン
  • 出版社: 早川書房

圧倒的なサイエンス知識でクオリティの高いSF作品を提供し続けるグレッグ・イーガン2010年の著作。(邦訳の出版は2015年) 「ゼンデギ」とは英語でいう「life」のペルシャ語で、同名のAR(拡張現実)オンラインゲームの名前であり、それを提供する企業名でもあります。

ペルシャ語ということで物語の舞台は2040年のイラン。ただ最後まで読んでも、舞台がイランである必要性は特に感じません。そんな舞台背景のリアリティ演出のためか、前半100ページ以上かけて、2012年に起こった(という想定の)イランの民主革命の様子がハードボイルドタッチで描かれます。イーガンの短編読んでて感じる「よーこんな未来的世界を緻密に描くもんだわ」と圧倒される感じには乏しく、それを期待する読者からすると「あれ?」と肩透かしをくらうかも。

後半は、ゼンデギのシステム、そしてそこへ脳活動をスキャンした情報を登録し、「プロキシ」として、死後も家族の支えになりつづけようとする男性のドラマが描かれます。が、人間をAI化して死後もバーチャルに存続、ってさほど新奇性もないですし、ここでも読みどころは、男性にまつわるヒューマンドラマと、イランの古代叙事詩「シャーナーメ」の名場面が、バーチャルゲームとしてAR化された描写を楽しむべきなんでしょう。

アマゾンでもイーガンにしては「冗長」「期待はずれ」などとあまり評価が高くないんですが、私はむしろ「イーガン、普通に小説うめぇ」と思いましたよ。本人はサイエンス風味をちょっと抑えてどこまで書けるか、やってみたかったんじゃないかな。