「パナマ文書」「行人」ほか、今週読んだ本4冊

やわなべです。

今週はボブ・ディランのノーベル文学賞受賞が話題でした。AppleMusicにもボブ・ディランの作品がたくさんあるんで、私も勉強がてら聴いてみたんですが、ぜんぜん面白くなくて、好みじゃなくて10分でやめました。

ビートルズなんかはリアルで聴いてなかった世代でも後追いで聴いてファンになるケースも多いと思うんですけど、ボブ・ディランを後追いで好きになる若い人っているんでしょうか。受賞の報に反応してたの、お年寄りばっかだったような気が。

そんなこととは一切関係なく、今週の読書をふりかえります。みなさま、よい週末を。

スポンサーリンク

パナマ文書 / バスティアン・オーバーマイヤー

「パナマ文書 (角川書店単行本)」販売ページヘ

パナマ文書 (角川書店単行本)

  • 作者: バスティアン・オーバーマイヤー
  • 出版社: KADOKAWA / 角川書店

今年の春、世界を震撼させた「パナマ文書」。ひとりの匿名の人物から極秘に情報提供を受けた南ドイツ新聞の記者が世界中のジャーナリストと秘密のネットワークを組み、人海戦術でデータを解析、全世界に向け暴露するまでの経緯です。

パナマ文書は、具体的には、パナマ籍の「モサック・フォンセカ(モスフォン)」という、いち法律事務所の内部資料です。この事務所がやってることはパナマの現地法人の設立とその管理。もちろんそれだけだとなんの違法性もありませんが、ここで乱造されたペーパーカンパニーが、わけあって保有資産の名義を隠したい人、税金がかからないように資産を移動させたい人の代理として使われることで、資産隠しのソリューションとして重宝されたわけです。

このサービスが、ほぼ全世界の要人・セレブの御用達だったことが内部データによって次々に暴かれていくわけですが、利益を得ていたのは彼らだけではありません。モスフォンへの仲介を行うコンサルタント(誰もが知ってる大手銀行だったりする)もその片棒を担いでたりするわけですね。

著者は警告します。

「世界中で社会がふたつの階級に分かれてきている。ひとつは普通に税金を支払う階級で、もうひとつは、いつ、どのように税金を払うかを、あるいは、払わないかさえも自分で決め、そうするための手段も持っている階級だ」

モスフォンはあくまでこうしたスキームの一手段であって、代替の企業もスキームも他にもあるんでしょう。そして今後もなくなることはないんでしょう。

「この階級分化が進み階級間に断絶が生じると、いかなる民主主義にとっても厄介なことになる。最も富める層が民主主義とは別のルールを奉るようになったときだ。いや、ルールなどいらないと考えたときかもしれない」

この懸念は奇しくも先週読んだ「人間さまお断り」で、AIが招く未来の負の側面と共通しています。格差社会の本当の恐ろしさはここなんでしょうね。

行人 / 夏目 漱石

「行人 (新潮文庫)」販売ページヘ

行人 (新潮文庫)

  • 作者: 夏目 漱石
  • 出版社: 新潮社

「君の名は」つながりで、huluで新海誠さんの「言の葉の庭」を見てたら、見覚えのある本が。漱石の「行人」、私の持ってるのと同じ新潮文庫のやつです。

私は漱石の作品の中でもこれがとても好きで、今回読むのもたぶん4回目くらいかと。ストーリーは地味で、客観的には知識人階級の家庭の日常風景にしかすぎないんですが、それぞれの内面描写が巧すぎて、上質の心理ドラマみたくなってるんですよね。いつまででも読んでられそうな感じ。

一家の次男、二郎の目線で語られますが、話の中心はなんといっても兄の一郎です。何事も先回りで考えすぎ、かつプライドが高すぎて、人間関係の全方面で支障をきたしてしまってるんですが、これは実際の漱石自身の苦悩と経験の反映でしょう。最近NHKやってたドラマ「夏目漱石の妻」でも描かれてたような。

ちなみに、その苦悩をさらにこじらせたのが「こころ」の「先生」で、もはや常人にはついていけない境地なわけですが、あれを中高生の課題図書にして胸中を推し量れ、って無茶な話ですよね。

本作の読みどころは「兄」の考え過ぎの内容そのものではなく、その苦悩を抱えながらの彼の日常が、周囲の人間関係や内面にどう作用するのか、それが恐ろしいほどリアルな描写で描かれるところです。それなのに、最終章ではその苦悩をまともに解説しようと「こころ」同様の手紙形式で強引にまとめにかかられるので、読後の置いてけぼり感がハンパない。シーズン7くらいまで付きあうつもりだったドラマが突如打ち切りになったようです。

漱石が抱えた苦悩はかように複雑多様なものだったんでしょうけど、その内のわかりやすい一要素に「女性はわからん」という単純なものがあるような気がします。

というのも本作では「兄」と「嫂(あによめ)」が繰り広げる静かな心理バトル以外にも、それぞれが独立した短編小説になりそうな、含みのある男女の挿話が織り交ぜられてるんですよね。特に父が来客時の余興として話す「女景清」の話なんて、新海作品のモチーフにも近い気がするんですけど、どうなんでしょう。

イタリア現代史 / 伊藤 武

先週呼んだウンベルト・エーコの「ヌメロ・ゼロ」で、日本とは違ったイタリア社会独特の闇を感じたので、イタリアの現代史をざっと俯瞰できるものと選んだのがこれ。

内容は、政局と政党の変遷を時系列に語るのが中心で、読み物的に読むにはしんどい本です。しかも与党の地盤が安定していない時期が多く、小さな党が選挙対策などの多数派工作の思惑から、くっついては離れの繰り返し。ただ、日本と違うのは、政権は連立政権であっても、首班として担ぐのはだいたい決まった顔ぶれであることと、すでに解党分裂してるものの旧共産党勢力が左派における一定以上の勢力を維持し続けている点でしょうか。

そんな中、特異な印象を受けるのは70年代です。学生運動も絡んで左右両派が過激化し、テロが横行。2000年代に入っても司法職の要人が暗殺されてたりしててヌメロ・ゼロに通ずる闇を一番感じます。

そして、2000年代は、本書の主役と言ってもいいベルルスコーニの時代。メディア王で実業家で、ACミランの会長で、女性問題と脱税のスキャンダルまみれで、権力の座にあるときに、自分が被告である裁判に有利になる法改正をしたりと、そのキャラは際立っています。

そして、イタリアの方には失礼ですが、実は一番読んでて面白かったのはベルルスコーニ退陣以後、2011年から現代への流れです。ベルルスコーニ時代に財政がのっぴきならない状況に陥ったのを受け、政治家でない経済学者のマリオ・モンティを筆頭とするテクノクラート政権が成立します。解雇規制の緩和や所得税・間接税の増税、年金支給年齢の繰り下げなど、党利党略に縛られた政治家だとまずできない改革を矢継ぎ早にすすめます。実際にはその過程で議会の承認を経る必要があるんで、全部がスムースには行かないんですが、日本も、せめて財務相あたりは、財政・金融の専門家がつくようにならないものかなぁ、と夢想します。

モンティ以後は、レッタから現在のレンティという民主党中心の体制になるんですが、その間もずっと影響力を保持し続けてるのが、われらがベルルスコーニです。退陣以後の政局にも狂言回しのようにポイントポイントで登場してきて、その後、脱税容疑で公職につく資格を剥奪されるんですが、メディアを抑えてるだけあって、現在でもその影響力は無視できないんだそうな。落ち着いたら、彼の評伝を読んでみたいもんです。

11の物語 / パトリシア・ハイスミス

「11の物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)」販売ページヘ

11の物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: パトリシア ハイスミス
  • 出版社: 早川書房

「太陽がいっぱい」など映画化された作品も多いハイスミスの短編集。20代の頃に出した処女作も含む11編。彼女の作品は多く邦訳が出ているのでこの短編を読んでる人は少ないかも。

短い物語だけど背景に過去の重たいストーリーがある、といったミステリー作家らしい心理サスペンス的な作品が多い中、なぜかカタツムリが主題の不気味な作品が2つあります。彼女の中でなんらかのメタファーなんでしょうか。

私の好みは、オチも盛り上がりもない話なのに、なぜか読んでて心が痛くなってくる「もうひとつの橋」。あと「からっぽの巣箱」もじわじわ後を引く恐ろしさがあって好きですね。

そして今気づきましたが、この文庫カバーのデザイン、カタツムリですよね。

今週のBGM

なんとなく毎週読書のお供によく聞いてた曲を紹介しようかな、と。

A Brazilian Love Affair / ジョージ・デューク

1994 / ブラジル

ボブ・ディランからは10分で逃げ出した私ですが、AppleMusicで70年代R&Bの名盤を聴きまくる個人的ブームはまだ続いてます。中でもジョージ・デュークの「A Brazilian Love Affair」がヘビロテ過ぎて毎日聞いてます。