「タングステンおじさん」「星くずたちの記憶」ほか、今週読んだ本4冊

やわなべです。

日本シリーズが面白いです。土曜日広島での第6戦、日ハムは先発に中5日の増井をたてるそうで、ここをカープが死守すれば最終戦の黒田 vs 大谷のマンガ対決の可能性があるかも。てかカープ、全体的にピッチャー酷使気味なんですけど大丈夫でしょうか。

そんなこととは一切関係なく、今週読んだ本を紹介する定例エントリーです。

私、いつも4、5冊の本を、1章ごとにローテーションさせながら読むんですけど、今回の4冊は内容が絶妙にリンクしていて、読んでてとても楽しい1週間でした。ローテーション読書、わりとおすすめかも。

スポンサーリンク

タングステンおじさん / オリヴァー・ サックス

2003年に出たのが文庫になってました。脳神経科医のサックスさんの自伝的作品なんですが、少年期の化学との出会いからはじまって、恵まれた教育環境のもと、日々新しい知識を得、自然の構造の理解をすすめる喜びが全編に満ちあふれています。

なんといっても彼の育った家庭環境が素晴らしい。ともに医者である両親に加え、18人兄弟だった母方のおじ・おばの多くが、サイエンス系の教養と高い教育意識を持った、サイエンス系インテリ一揃いだったんですね。

中でも表題の「タングステンおじさん」、本名デイヴという名前のおじさんは、電球のフィラメントを作る工場を持ってて、そこにある様々な金属や鉱物、化学物質を使った実験を通じて甥っ子のサイエンス魂に火をつけます。しかもこのおじさん、巻頭写真を見ると見た目もダンディでかっこいい。

英才教育をほどこされたオリヴァー君、やがて自宅に自分だけの実験室を持つようになり、爆発や異臭騒ぎを起こしながら毎日化学実験に明け暮れます。ひとつひとつの元素の特徴を愛で、まるでペットのように愛着を深めていく様子が伺えます。

さらに過去人類がどうやってそれらの化学知識を得るに至ったかを探るべく、化学者の著書を読みあさって、その歴史をひもとこうとしていきます。

個々の知識は理科の授業で知ってるんですが、少年オリヴァー君の目線で、日々の新たな発見の喜びを共感しながら読んでいると、教科書に書いてたことって実はこんなに神秘的だったんだ、と新鮮な気持ちにさせられます。

星くずたちの記憶 / 橘 省吾

2010年に様々なトラブルを乗り越え、奇跡の帰還を果たした探査機「はやぶさ」。その感動のエピソードと裏腹に、そこから持ち帰ったサンプルで何かわかったのか、よく知らなかったんですよね。

著者は「はやぶさ」2号機の開発にも関わった方で、そうした探査機が何を知ろうとするためのプロジェクトなのか、そして、過去の実績からどんなことがわかったのかをテーマに、宮沢賢治らの引用も交えながらロマンチックに語るおしゃれな本です。

さっきのオリヴァーくんを魅了した自然界に存在する元素の数は92。うち、太陽にあるのは水素とヘリウムのみ。地球は主に鉄とマグネシウムとケイ素と酸素でできていますが、ではそれらの元素は一体どこから、どのように来たのか。

それを知る鍵のひとつが隕石で、そこに閉じ込められた物質的記憶から、太陽系やその惑星が形成された歴史が読みとれます。ただ、隕石は欲しくても降ってくるのを待つしかないので、じゃあこっちから取りに行こう、という試みが「はやぶさ」などの探査機なんですね。

現在「はやぶさ2」は小惑星リュウグウを目指して航海中。そこで採取したサンプルを地球に持ち帰ってくるのは東京オリンピックの年、2020年の予定です。その時、人類は何を新たに知ることになるんでしょうか。

人間の土地 / サン=テグジュペリ

「人間の土地 (新潮文庫)」販売ページヘ

人間の土地 (新潮文庫)

  • 作者: サン=テグジュペリ
  • 出版社: 新潮社

サン=テグジュペリは、国際郵送の職業パイロットだった人です。一度、砂漠に不時着した日の夜、砂の上に隕石を見つけ、宇宙とのつながりを感じた、という一節が上の「星くずたちの記憶」に引用されてました。「あれ、そんなシーンあったっけ?」と思って再読。読むのは久々ですが、読むたびに違った感動を与えてくれる名作です。

今と違って、まだ飛行機の技術が未熟な時代、彼らの飛行は常に死と隣りあわせでした。冬のアンデス山中に不時着した同僚ギヨメの体験、サハラ砂漠に不時着し、死の際まで追い詰められた自分自身の体験が、力強い抒情詩のような文体で語られます。

が、最後の章になって「読者がこうした飛行士の生き様を賞賛したくなったとしたら、それは自分の目的ではない」と突き放されます。賞賛すべきは「土地」なのだと。

この「土地」ってのは、彼らを死の淵に追いやった厳しい自然環境、という意味ではなく、自らの生命を賭けうる対象、という比喩でしょう。「生きる目的」なんて言ってしまうと、とたんに陳腐になってしまうんですが。

それを念頭に読み返すと、一見つながりのないように見えるどのエピソードにも、意義を持って生きる人間、その人の持つ威厳や誇りに対する賞賛にあふれていることがわかります。

特に印象的なのは、長年、モール人の奴隷となっていたモロッコの老人バークの話。奴隷身分からの解放をう嘆願されたサン=テグジュペリが身請けする形で自由を手に入れたんですが、自由になった彼が故郷に帰って見出した意外な「土地」のエピソードに強く心を打たれます。

この作品は光文社の文庫による新訳も出てますが、やや古風ながらも堀口大学訳の美文で読みたいところ。また、カバー絵を描いてるのが誰あろう、宮﨑駿氏なんですが、巻末には彼の飛行機への想いを熱くぶちまけた小文が添えられています。この作品の解説というより、映画「風立ちぬ」の解説のようで、こちらも見どころのひとつ。

図解 プレートテクトニクス入門 / 木村学、大木勇人

積ん読だったんですが、先日の鳥取地震で、ここ関西もわりと揺れたの機に読み始めました。動機がわかりやすすぎる。

日本の地震の多くが、大陸プレートと海洋プレートとの押し合いの結果であることは知ってましたが、なんで押しあってるのか、なんでプレートが動くのか、そもそもプレートってなんなのか、という疑問に答えてくれる本です。

手抜かりのない高度な内容なんですが、それを補うのが「図解」。本書はこの図解の度合いがちょうどよくて、文章だけだと「えーとごめんなさい、ちょっとイメージがわかないです」ってなるところで、ことごとく図解がついてる。共著者である大木氏が検定教科書の編集を長年やっておられたようで、そのご経験の賜物なんでしょう。

地震の解説でもよく見るように、日本の太平洋岸では大陸プレートが海洋プレートに乗っかってる格好になってますが、あの沈みこんだ海洋プレートの端っこは、スラブ、さらにメガリスと、その形態を変え、最終的に地中のマントルと一体化します。スラブ化の過程で抜ける水分が、海溝に沿って火山帯が形成される遠因にもなってる。

その海洋プレートの動きのもう一方では、海嶺においてマントルが上昇する動きがあり、その一対の運動がマントル対流としてプレートが動く要因になっている、ということだそうな。なんとも壮大な話ですが、ほら、図解が欲しくなったでしょ?

海洋プレートが沈み込むポイントでは、地殻の一部を削りながら沈んでいくケースもあるようで、つまり海溝沿いの海辺に葬られた人の亡骸は、何千万年かかけて地球の中心部まで到達するかもしれないってこと。ちょっとロマンチックですよね。

(今週のBGM) COW Chill Out, World! / The Orb

COW / Chill Out, World! / The Orb

2016 / エレクトロニック

エレクトロニックの大御所、ジ・オーブの今月出たばっかの新作です。てかまだ活動しておられたとは。

アンビエント系のミニマルサウンドですが、アンビエントと聞いて想像する、瞑想BGM用ヒーリング・ミュージックみたいな退屈ものではありません。静かながらもとても主張性の強い音作りに職人のこだわりのような年輪を感じます。COW=牛といえば、ピンク・フロイドの名盤「原子心母」のジャケットを想起しますが、あれの正当な進化系ってこれなんじゃないの、という気も。宇宙系のSFや、天文学系の本を読むときのお供にぴったりですよ。