「仏教思想のゼロポイント」「生きて帰ってきた男」ほか今週読んだ本3冊

やわなべです。

トランプさんが次のアメリカの大統領に決まりましたね。開票はまたしても日本のマーケットの場中で株式市場大荒れだったんですが、今回は私、Brexitのときみたいな底値拾いはしませんでした。結果的にはやっときゃよかったわけですが、しばらくキャッシュポジションを高めにして様子見しておきたいところ。この円安が続くとは思えないんですよねぇ。。

今週読んだのは以下の3冊。同時に読み進めてたブルーバックスの新刊『宇宙は「もつれ」でできている』は、600ページ近くあって、1週間で半分しか読めませんでした。

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『仏教思想のゼロポイント』 / 魚川 祐司

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仏教思想のゼロポイント―「悟り」とは何か―

  • 作者: 魚川 祐司
  • 出版社: 新潮社

仏教の原点であるゴータマ・ブッダの思想を整理し、その教義を論理的にわかろうとする試み。四諦、五蘊、縁起、輪廻、そして涅槃など、なんとなく知ってるつもりだった概念が体系的に見事に整理されて、かなり見通しがよく感じられるようになりました。特に輪廻は、著者が多くの人に誤解されていると指摘されるように、「死後、別の生として生まれ変わる」物語だと私も思っていたし、その物語性ゆえに、非論理的な教義と思ってたんですが、そうではないんですね。

そのゴータマ・ブッダの思想の原点、著者のいう「ゼロポイント」とは、涅槃、つまり「悟り」の境地にあるわけですが、その後の大乗仏教の広がりを見ても、やはりこの「悟り」に至るハードルが高すぎることが、混乱を招く大きな要因になっていると思われます。かといって、そこをあやふやにしてしまうと、行動倫理的なものになってしまう。

また、仮に本書に沿ってブッダの教義が把握できたとしても、実践がともなわないと、やはり意味がない。現在、こうした実践研究の最先端にあるのがアメリカなんだそうで、昨今よく聞く「マインドフルネス」ってのも、テーラワーダ仏教で強調される「気づき(Sati)」の英訳で、瞑想を中心とした実践の際の態度なんですね。アメリカ人って世界で一番宗教的な民族のような気がしてきました。

『生きて帰ってきた男』 / 小熊 英二

第2次大戦最末期に徴兵、満州に駆り出され、終戦後、シベリア抑留にあったひとりの男性の人生の記録です。その人の名は小熊謙二という人で、著者のご尊父であられます。

400ページ弱と新書にしては分厚いんですが、シベリア抑留の悲惨な体験が中心かと思いきや、実はその次代の記述は2,3章で、むしろその前後、どのような経緯で一般人が戦争に駆り出されたか、また、戦後、帰還兵らが、生きるために、どんな苦労があったかが戦争体験と同列で語られます。

戦争期という異常な時代に一般人が巻き込まれると、その人生の歯車がどう狂い、またもとに戻すのにどれだけのコストがかかるのか、がありありとわかる貴重な記録となっています。

この記録とて、たまたま息子が著述にかかわる仕事をしていたから世に出たわけで、本人自らは、体験を記録もせず、家族にすら積極的に語ったりすることはなかったんだそう。彼の人生のどん底は、むしろ帰国後、命を捧げた国からは何の保障も受けられず、頼れるの人のつては、すべてあたって戦後の混乱期をしのいでいきます。同じような経験の中で、誰に知られることなく死んでいった人も多いでしょうし、その人生の多くがだれも知らないままに葬られたことでしょう。

本書の素晴らしい点は、謙二氏の記憶が正確で、かつ、感情的な批判や主張が混じらない、客観的な著述に終止している点です。息子である著者も、その精神を引き継ぎ、要所要所で各時代の世相状況や他の人の手記などを引きながら、淡々とした、あくまで客観的な語り部につくしています。一般人の人生なんですが、大河ドラマを見終えたような読後感でした。

『氷』 / アンナ カヴァン

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氷 (ちくま文庫)

  • 作者: アンナ カヴァン
  • 出版社: 筑摩書房

たまたま書店で平積みになってたのを買ってみたんですが、まあ奇妙な小説です。筋書きとしては主人公である「私」(おそらく中年の男性)が、虐げられた境遇にある「少女」を謎の使命感によって助けようとひたすら追いかけ続ける、ただそれだけの話。

内面の描写はほとんど語られず、「私」と「少女」の関係も、彼らの名前も、「私」がなぜ「少女」に固執するのかの動機も不明。おまけに「少女」は、味方であるはずの「私」を思いっきり拒絶してるし、そもそもプロットが分裂気味で、ところどころ破綻しかけてるしで、単純にストーリーを楽しもうとして読むと、途中で投げ出す人も多そう。

場面展開だけはやたらに急な中、回想なのか妄想なのか、なんだかよくわからない描写がまじってきて、「あ、なんかヤバい本選んでしまったかも」というメタ的な不安を感じます。

さらに、この作品世界においては急速な「地球寒冷化」が進んでいるという設定で、地球全体が徐々に氷に侵食しつつあります。それが「私」と「少女」の不条理なストーリーと並行して不気味に進行するんで、ダブルに不安をあおられるわけですね。

漠然とした焦燥感の中、どこまで行っても手にはいらない「少女」を求めて、雪と氷の世界をなぜか走り続ける。これ、生活に不安を抱えてる時に見る夢の世界です。論理的につじつまがあわなかったり、突飛すぎる展開も夢っぽい。ちなみに作者のカヴァンさんはやや精神的に不安定だった方のようで、薬物も常用されていたそう。

結局、さまざまな不安とともに自分も最後まで疾走させられたんですが、「なんかえらいもん読んだわ」という、一味違った読後感を感じてます。冒頭の解説によると本作品は「スリップストリーム」なるカテゴリーの重要作だそうですが、同カテゴリーの類書を読もうという気は…ないですね。

【今週のBGM】 Scandale / アリス=紗良・オット & フランチェスコ・トリスターノ

Scandale / アリス=紗良・オット & フランチェスコ・トリスターノ

2014 / クラシック

やたら長い名前のおふたりによる、ピアノの連弾作品。アリスさんはドイツ人の父と、ドイツと日本のハーフの母を持つ方で、フランチェスコさんはルクセンブルクの方。フランチェスコさんはクラシックだけでなく、テクノ方面でもご活躍のようで、この作品の1曲目は彼の作曲による、ミニマルテクノ風の曲です。これがすごく私好みで、かつ、さきほどの「氷」のBGMによく合いました。