『宇宙は「もつれ」でできている』『観察力を磨く 名画読解』ほか今週読んだ本4冊

やわなべです。

この週末読書メモを定期的に書くようになってから、なんとなく他のことを書く気が薄れてきてるんですが、このブログはもともと書評エントリーがあまり読まれない傾向がありまして、当然の帰結としてアクセスが順調に減ってきておりますw

ただこの「週いちエントリー」の習慣化によって、読書にも、ブログにも、一定のリズムができてるんで個人的にはその効能の方を尊重したい。近頃は「来週の読書時間を楽しく過ごすための図書リスト」をワンセットで考えるようになってて、ざっくり

・ 興味ある複数ジャンル(サイエンス、経済、歴史、宗教あたり)から、新刊中心にノンフィクション2冊
・ 小説1冊
・ 先週以前に読んだ本からの派生本1冊

みたいに決めてます。で、このワンセットの構成を考えるのが旅行の計画みたいで楽しい。私、めぼしい新刊を見つけても即買いはしなくて、とりあえずアマゾンの「ほしいものリスト」に入れときます。で、週に1度、大きめの書店で2時間くらいかけて、リスト片手に実物をひとつひとつ手にとって選別するんですけど、その途中に掘り出し物を見つけることもあって、これまた楽しいわけです。

何が言いたいかというと、今週も良い読書ができたので、選んだ先週の私、グッジョブ。

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宇宙は「もつれ」でできている / ルイーザ・ギルダー

ブルーバックスの新刊ですが、いつもより薄い紙で600ページ弱の内容を詰め込んでます。よくこれ1冊の新書枠で出したもんです。

著者は長澤まさみ風の若い科学ジャーナリストですが、なんと8年がかりで書いた労作とのこと。物理学上の最大の難問である量子論を巡って、アインシュタインの時代から今世紀に至るまで、物理学者たちの間でどのような議論が交わされてきたか、というのがテーマ。

残念ながら600ページを読み終えても量子論は全く理解できません。途中、数式は全く出てこず、代わりにあるのはバラエティ番組の再現VTRさながらの物理学者たちの会話、会話、アンド会話。「なんだ、ドラマ仕立てのフィクションか」と切り捨てるのはまだ早い。著者は物理学者同士でかわされた膨大な書簡や手記を読みこなし、その要素を巧みに再構成することで、100年にわたって地球最高の頭脳が挑みつづけた、とらえどころのない巨大な謎との格闘の歴史を、その場に立ち会っているかのような臨場感とともに描きだそうとしています。

読み物としても当然面白いわけですが、こと量子論に関しては、彼女の大胆ともいえる試みは大いに意義があるとも感じます。というのも、量子論では実験と反証によって新たな理論を積み重ねていく、という本来の科学的なアプローチが通用せず、「実在とは何か」「測定とは何か」「物理学の領域とは?」といった、なかば哲学的な問題がつきまとい続ける世界なわけですよ。

そこではおのおのが独自の解釈で導いた数式より、むしろ量子論に対する彼らの「態度」こそが重要なのかもしれません。しかも出て来る学者連中はのきなみ社交的なナイスガイで、ほぼ全員が議論好き、見解が違う相手とでも、ネット上の不毛な論争とは別次元の有意義な議論が延々と繰り広げられます。この会話集こそ、量子論を把握するための何よりのアプローチだという著者の考えには賛同したいですね。理解してないけど。

1923年のコペンハーゲンの市電に乗りながらのボーアとアインシュタインとの会話。ヘルゴランド島の自然の中で不確実性定理に行きついたハイゼンベルク。CERNのカフェテリアで熱い議論をふっかけるジョン・ベル。そうしたシーンの数々が、映像とともに脳裏に浮かんできて、折々再読したくなる類の本でした。

観察力を磨く 名画読解 / エイミー E ハーマン

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観察力を磨く 名画読解 (早川書房)

  • 作者: エイミー E ハーマン
  • 出版社: 早川書房

タイトルからは美術鑑賞がテーマの本のように思えますが、どちらかといえばビジネス書的で、「知覚の技法」の重要性さを説く内容です。目の前の事象を、細部まで客観的に観察し、分析し、伝える、これがテーマなんですが、ユニークなのは、その練習の題材としてアート作品を用いるところ。

実際、本書で例示されているマグリットらの作品を見たあとで、何が見えたかを書き出してみるんですが、明らかに見えてるはずの情報を見落としていたり、主観的な判断がまじっていたり、固定観念による決めつけが混在していることに気づきます。いかに日常において、知覚した情報の多くを無意識のうちに恣意的に取捨しながら生活しているかってことですね。

著者のセミナーには、FBIの捜査官や軍人、トリアージに携わる医者や児童相談所員など、瞬時の観察力が人の生死に関わりうる職種の人がこぞって参加するんだそう。

書いてるエッセンスは単純っちゃあ単純なんですが、たしかにこれを読んだあと外出すると、意識して観察しよう、という気持ちが高まって、世界の見え方がちょっぴり変わります。

そしてこの態度、著者は言及してませんが、主観的な思考を退けて意識を「今ここ」において客観的な知覚に集中する態度ってことで、先週「仏教思想のゼロポイント」で考察した、いわゆるマインドフルネスの状態にも通ずるものがあるんじゃないかな、と。

イワン・デニーソヴィチの一日 / ソルジェニーツィン

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イワン・デニーソヴィチの一日 (新潮文庫)

  • 作者: ソルジェニーツィン
  • 出版社: 新潮社

先週の「生きて帰ってきた男」で、シベリア抑留の体験記を読んで、ソ連の収容所といえば、という連想でソルジェニーツィンのこれ。タイトル通り、収容所で暮らす囚人イワン・デニーソヴィチ・シューホフの一日を、彼のモノローグ形式で綴っただけの作品なんですが、そのシンプルな力強さにただただ引き込まれます。

作品には章立てもなく、起床時から就寝時間まで一気通貫で流れるタイムラインをそのままなぞっていく感覚。シューホフは家族と暮らしていた過去を振り返りもしないし、体制に対して批判も展開しないし、理不尽な境遇の中になにがしかの意味を見出そうとしたりもしません。というかそんな感傷的な思考に浸る暇なんてないわけで。

「生きて帰ってきた男」において主人公謙二は、悲惨な境遇にあっても「希望さえあれば生きていける」と締めくくりましたが、このシューホフにはその希望にすがろうとする態度すら見いだせません。かといって自暴自棄になるわけでもなく、ひたすら目の前の事象と、その現実的な対応のことだけを考えます。思考のすべては、営倉(懲罰的な労働)送りになるリスクの軽減と、200gのパンやタバコといった利得を得るため所内の人間関係を円滑に保とうとする実際的行動に費やされます。マインドフルネスの極地ですw

その態度はもはや快活で、悲惨な状況にもかかわらず、読んでる途中声を出して笑ってしまうこともありました。で、その笑いが止んだとき、ふと思うわけです。

「シューホフより間違いなく恵まれた生活をしてるはずの現在の自分は、果たして彼より幸せだと言えるのだろうか」と。

ジョーカー・ゲーム / 柳 広司

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ジョーカー・ゲーム<ジョーカー・ゲーム> (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社: KADOKAWA / 角川書店

Amazonプライム会員の友人に見せてもらったアニメ作品が面白かったので原作を読んでみました。スパイものの短編小説なんですが、戦前・戦中の日本軍で極秘に組織された「D機関」というスパイ養成機関とそのスパイ達をめぐる物語です。おそらく実在した「陸軍中野学校」がモデルなんでしょう。

ジェームズ・ボンド的な特定の傑出したスパイがいるわけでもなく、毎回メインとなる人物は変わります。スパイ小説にかかせない幾重にも複雑な入り組んだプロットと、大戦当時の国内情勢がドライに描かれるところがいいですね。

一番好きなのは「ロビンソン」という短編。イギリスでのスパイ活動の餞別にと上司から「ロビンソン・クルーソー」の本を送られた意味が、現地のスパイ活動で窮地に陥った際に明らかになる展開にうならされます。「ロビンソン・クルーソー」の著者ダニエル・デフォーもまた、英国のスパイだったんですよね。

【今週のBGM】 Warm On a Cold Night / HONNE

Warm On a Cold Night (Deluxe) / HONNE

2016 / オルタナティブ

ロンドン出身のエレクトロ・デュオのHONNE。日本好きでユニット名も日本語の「本音」から来てるそうです。正統派なソウルに現代風のエレクトロが重なる、オシャレなんだけど温かみのあるサウンドを聴かせてくれるユニットです。

ここんとこAppleMusicのお気に入りだったんですが、実は彼ら今週来日してて、かつ大阪公演もあったんでチケット取って観てきました。1時間くらいのライブでしたがかっこよかった。繊細でセクシーなボーカルがたまらんです。