『アルゴリズム思考術』 / ブライアン クリスチャン
例えば引越し先の不動産探しや、企業の求人でどこまで新しい情報を求めるべきか、という問題には探索にかける時間のな何%まで新規開拓を続けるのが最適解となるという答えがある。が、読む進めるにつれ、いわゆる機械的な判断が不可能だったり、解くのに膨大な計算量が必要な類の問題もあることがわかる。そこで提案されるのはランダムな要素を取り入れたり、統計から推測するというアプローチであり、中には実生活で何気なしにやってたりすることも多い。そうしたアルゴリズムのパターンが網羅的に学べる点で有用な本だと思います。
『アフター・ビットコイン』 / 中島 真志
著者は日銀での勤務経験もある方で、ビットコインをはじめとする仮想通貨のブロックチェーン技術の可能性は認めつつ、管理者不在のコインは過剰な投機を煽るだけでは、と批判的です。書かれたのは去年ですが、コインチェック事件を受けた後では、このくらいのトーンがちょうどフィットするかも。実際、本書によって一般流通するコインの発行高の大部分が少人数によって保有されている点や、流通の多くが中国である点、システマチックなマイニングによる不公平性などを知ると、長期的な資産運用の一環としてはどうかなぁ、と感じます。後半では中央銀行や民間大手銀行による、ブロックチェーン技術を用いた新しい決済システムの実験の現状が紹介されますが、ビットコインがPoW(プルーフオブワーク)で実現している第3者によるとトランザクション承認が、中央に管理的なシステムを置いて実際運用できるの?という疑問は感じました。逆にその辺りのプロトコルが確立されれば、送金や決済について「銀行の中抜き」が生じるのでは、という指摘には同意。
『日本神話はいかに描かれてきたか』 / 及川 智早
イザナギ・イザナミやアマテラス、神武天皇や神功皇后といった日本神話に出てくる人物のイメージは明治維新後の国家イデオロギー形成の中で意図的に再構築された面がありますが、本書はそうした風潮を思想的に真正面から論じるのではなく、それらのキャラが民衆が触れる広告イラストなどにどう描かれれてきたかを検証する、面白いアプローチをとってます。特に女性キャラについては、当時の西洋化の中にあって、欧米人の聖書や神話のキャラクターへの接し方を模倣したんだろうなぁ、と感じるところもあって面白い。昨今のスマホゲームにもこれら神々がキャラとして登場する作品もあるようですが、背景の物語はまるで欠如してて、ただの人数合わせとしか扱われていような気がして哀しいですね。
『幻坂』 / 有栖川 有栖
大阪七坂と呼ばれる坂のそれぞれをモチーフにした短編小説集。時代背景や登場人物はほとんど共通しない作品群ながら、いずれも幽霊譚であるという共通項があります。短編で幽霊譚ということで、なんとなく展開が読めたりというところはあるものの、それぞれの坂の歴史や由来などは、丁寧に取材されたであろう素材をうまく物語として織り込んでおられる印象。ミステリー作品よりも歴史物を描いて欲しい作家さんですね。
『ダークサイド・スキル』 / 木村 尚敬
根回しに象徴される日本型組織の中の泥臭い人心掌握術の本かと思っていたら、思ったより意識高い系の内容。読者ターゲットは大企業の中にあって、10年、20年後の会社の行く末に不安を抱え、抜本的な構造改革を目論むミドルクラス、ということで、まあ、そういう人もいるんだろうけど、かなり狭いのでは。「踏み絵から逃げるな」とか、ダークでもスキルでもない、ただの精神論やんとか思う箇所もあるし。間違ったこと言ってるわけじゃないんだけど、ベストセラーとして広く読まれるような本ではないように感じました。
『ロボット』 / カレル・チャペック
AI本乱立しすぎで食傷気味だったので、その祖先というか古典的な戯曲を読んでみた。短い作品ですが、ユーモアに富んでてテンポも良く、キャラも立ってて、普通に劇としてみたら面白かろうと思いました。話は、いわゆるディストピア、人類としては悲観的な結末なんですが、ある意味光明を感じられる終わり方で、ロボット社会の未来を危惧する先駆的作品というポジション抜きでも、読み継がれている作品だろうなあと感じました。